海外顧客へのカスハラ対策|言語・文化・時差を越える対応基準
法令状況(記事基準日:2026年8月29日):改正労働施策総合推進法による事業主のカスタマーハラスメント対策義務は、2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます。記事基準日には全国法は施行前です。2026年10月1日以後に読む場合、全国の措置義務は施行済みです。一方、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例など、記事基準日にすでに施行されている自治体条例もあります。
対象読者:海外営業、輸出入、グローバルサポート、越境EC、人事・コンプライアンスの責任者
テーマ:組織体制
海外顧客との取引では、言語、商習慣、祝日、タイムゾーン、意思決定の速さが異なり、率直な表現が強く聞こえることがあります。しかし、文化差を理由に差別的な発言、脅迫、深夜の即答強要を容認する必要はありません。反対に、国籍や発音だけで危険と決めつけることも避けます。
2026年10月1日の改正法施行へ備える国内事業者は、国内向け方針を翻訳するだけでなく、24時間の引き継ぎ、通訳、地域責任者、データ共有の方法を設計します。誰に対しても共通の行為基準を用いながら、誤解を減らす言語支援と各地域の法令・契約確認を組み合わせます。
文化の解釈ではなく観察できる行為で判断する
まず顧客の要望、契約、納期、障害、時差による連絡のずれを確認します。強い表現でも、翻訳の精度や商習慣の違いが影響していないかを、通訳や別担当を交えて確かめます。そのうえで、従業員の人種・性別への侮辱、解雇の強要、家族への危害予告、大量の時間外連絡など、具体的な行為を共通基準で記録します。
国・地域別に「この文化では普通」と断定する一覧は、偏見や見落としを生みます。全顧客に共通する尊重あるコミュニケーションのルールを示し、言語ごとに中止を求める文例を準備します。意味が曖昧な発言は原文と翻訳を残し、一人の語学担当だけで脅迫性を判断せず、必要に応じて地域専門家へ確認します。
- 契約・時差・翻訳のずれを確認してから行為を評価する
- 国籍ではなく侮辱・脅迫・大量連絡など具体的行為を見る
- 原文と翻訳を残し、曖昧な表現は複数者で確認する
タイムゾーンを越える窓口と警告文を整える
対応時間、緊急連絡の定義、次の地域への引き継ぎ時刻を契約・サポートページで示します。個人の携帯番号やSNSに24時間連絡を集めず、共有キューや当番へ集約します。引き継ぎでは、顧客の要望、確認済み事項、次回更新時刻、攻撃的言動への警告を分け、地域が変わって同じ交渉を繰り返さないようにします。
警告文は短く平易な言葉で、対応を続ける事項と停止を求める行為を示します。改善しなければ管理者へ交代し、会議終了や文書連絡へ切り替えます。翻訳担当者自身が攻撃の対象になった場合は交代させます。具体的な危害予告や個人情報公開がある場合は、社内の安全・セキュリティ担当へ即時に上げます。
- 対応時間・緊急条件・地域間の引き継ぎ時刻を顧客へ示す
- 個人連絡先ではなく共有キューと当番で24時間をつなぐ
- 多言語の警告、管理者交代、会議終了の文例を準備する
越境する記録・契約・従業員支援を確認する
グローバルCRMへ記録する際は、顧客情報と従業員の被害情報の閲覧範囲、保存場所、地域間共有を社内ルールに沿って確認します。全世界の営業へ一斉共有せず、アカウント責任者、安全担当、関係地域など必要な人へ限定します。録音・録画は地域や契約で扱いが異なる可能性があるため、実施前に所管部署へ確認します。
取引制限、契約変更、地域法人からの回答は、契約準拠や現地事情を踏まえて法務・地域責任者と判断します。被害を受けた従業員には、夜間当番の交代、顧客担当変更、通訳支援、相談を提供します。事後は言語の誤解、回答の遅れ、時差配置、権限不足、顧客側管理者との連絡を分けて振り返ります。
- 越境共有する顧客・被害情報の閲覧者と保存先を確認する
- 録音・契約・利用判断は所管部署と地域専門家へ確認する
- 夜間当番交代・担当変更・通訳・相談で被害者を支援する
事例:時差を越えて個人端末への攻撃が続いた場合
海外顧客担当者が障害回答を待てず、日本側社員の私用SNSへ深夜に侮辱と解雇要求を送り続けました。会社は公式の共有キューへ連絡を戻し、次回更新時刻を相手の時間帯も併記。地域責任者が英語で中止を求め、顧客側管理者へ窓口変更を依頼しました。社員は夜間当番から交代し、原文と翻訳を限定保存。障害説明と攻撃的言動を別に検証しました。
実務チェックリスト
- 国籍や文化ではなく具体的な行為で判断する基準がある
- 対応時間、緊急条件、地域間の引き継ぎが明確である
- 多言語の警告・会議終了・管理者交代の文例がある
- 越境データ共有と地域ごとの契約判断を所管部署が確認する
よくある質問
海外では強い交渉が普通なので、カスハラとして扱わない方がよいですか?
文化差への配慮は必要ですが、国籍だけで言動を容認したり危険視したりするのは適切ではありません。翻訳や契約上の誤解を確認したうえで、侮辱、脅迫、時間外の大量連絡など具体的行為を共通基準で扱います。地域固有の法令・契約判断は地域責任者や専門家へ確認してください。
公式資料
- 厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
- 厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年4月24日)
- 厚生労働省「改正労働施策総合推進法等の概要」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(改正法成立前に作成された実務資料)
- 東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」
本記事は公開日時点の公的資料をもとにした一般的な情報です。個別事案の法的判断は、弁護士・社会保険労務士などの専門家や関係機関へご相談ください。
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