金融機関のカスハラ対策|本人確認・審査・取引制限をめぐる応対
法令状況(記事基準日:2026年8月29日):改正労働施策総合推進法による事業主のカスタマーハラスメント対策義務は、2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます。記事基準日には全国法は施行前です。2026年10月1日以後に読む場合、全国の措置義務は施行済みです。一方、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例など、記事基準日にすでに施行されている自治体条例もあります。
対象読者:銀行、信用金庫、保険、証券、決済事業者などの店舗責任者・顧客対応・人事担当者
テーマ:業種別対策
金融機関では、本人確認、審査、送金保留、口座やカードの利用制限、保険金・給付金の判断、手数料をめぐり、顧客の生活や事業に大きな影響が生じます。説明への切迫した要求を丁寧に扱う一方、職員への脅迫や個人情報の開示強要によって手続きを曲げてはいけません。
2026年10月1日の改正法施行を見据え、顧客保護と職員保護を対立させずに運用します。手続き上開示できる範囲、再確認や異議申立ての窓口、現場責任者の権限を明確にし、窓口・コールセンター・不正対策部門が同じケースを共有できるようにします。
説明可能な範囲と変更できない手続きを示す
顧客が困っている取引、希望する期限、既に行った手続を確認し、受付番号や履歴を基に現状を説明します。本人確認や審査の詳細など、現場で開示・変更できない事項は、その理由を可能な範囲で示し、再審査や正式な相談窓口があれば案内します。「決まりです」だけで終えず、次に取れる行動と回答時期を具体化します。
手続きへの正当な異議と、担当者の家族への危害予告、個人端末の提示要求、ほかの顧客情報を見せるよう迫る行為、窓口を長時間占拠する行為は分けます。重要顧客や取引額を理由に危険な言動を容認せず、属性や資産状況でカスハラ認定を変えない共通基準を持ちます。
- 取引番号、受付履歴、現在の処理段階、次回回答日を確認する
- 現場で開示・変更できない事項と正式な異議窓口を説明する
- 取引規模ではなく、脅迫・情報開示強要・占拠などの行為を見る
窓口・電話・オンラインの窓口を一本化する
店頭で解決できない案件は、応接室への移動、責任者交代、専門部署への照会を段階化します。密室になる場合は複数名で対応し、ほかの顧客の取引画面や会話が見聞きされないようにします。電話やチャットへ同じ要求が繰り返される場合は、ケース番号を共通化し、回答済み事項と未解決事項を整理します。
威嚇を受けて本人確認を省いたり、制限を解除したり、職員個人が補填を約束したりしないことを明文化します。暴力、具体的な危害予告、設備破壊などがある場合は、安全担当・警備へつなぎ、必要に応じて警察への連絡を検討します。顧客の資金上の緊急性は所定部署が評価し、危険な言動への対応とは役割を分けます。
- チャネルをまたぐ案件は共通ケース番号で回答と未解決点を管理する
- 威圧を受けても本人確認や内部承認を省略しないと周知する
- 応接室対応は複数名とし、安全担当へ即時連絡できるようにする
機密性を保った記録と職員フォローを行う
事案記録には、顧客の要求、取引処理の状態、説明した内容、具体的な発言・行為、警告、対応結果を残します。ただし、カスハラ対応に不要な資産情報や家族情報を広く共有しません。アクセス権限のあるケース管理で、顧客対応部門、安全管理部門、必要な管理者だけが確認できるようにします。
被害職員には交代、休憩、相談を提供し、顧客の取引額や役職を理由に謝罪を強要しません。事後レビューでは、職員の言い回しだけでなく、本人確認画面、処理状況の通知、回答期限の連絡、店舗の非常ボタンなどを改善します。制度や規制に関わる具体的判断は、社内のコンプライアンス部門や専門家に確認します。
- 事案共有では必要な取引情報に限定し、閲覧権限を管理する
- 重要顧客であっても被害職員へ個人的な謝罪や補填を求めない
- 手続き・表示・連絡期限・安全設備を事例レビューで見直す
事例:送金保留の解除を窓口で迫られた場合
確認中の送金について即時解除を求める顧客が、担当者の家族へ危害を加えると発言しました。担当者は手続きを省略せず責任者へ交代し、別担当がほかの顧客を移動。責任者は処理段階と次回連絡時刻を伝え、脅迫は安全担当へ報告しました。取引判断は専門部署が継続し、職員は休憩と相談を受け、接客と審査を切り離しました。
実務チェックリスト
- 本人確認・審査など現場で変更できない手続きが明確である
- 窓口、電話、オンラインの履歴を共通ケースで確認できる
- 脅迫時も手続きを省略せず安全担当へ交代する手順がある
- 機密情報を限定共有しつつ被害職員を迅速に支援できる
よくある質問
大口顧客からの要求は通常より柔軟に扱うべきですか?
商品・サービス上の裁量は社内基準に沿って判断しますが、取引額を理由に職員への脅迫や侮辱を容認すべきではありません。本人確認や承認手続きを守り、正当な異議申立ての道を案内しながら、危険な言動には共通基準で対応します。具体的な取引判断は所管部署へ委ねてください。
公式資料
- 厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
- 厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年4月24日)
- 厚生労働省「改正労働施策総合推進法等の概要」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(改正法成立前に作成された実務資料)
- 東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」
本記事は公開日時点の公的資料をもとにした一般的な情報です。個別事案の法的判断は、弁護士・社会保険労務士などの専門家や関係機関へご相談ください。
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