カスハラ対策と消費者の権利は両立できる|苦情を封じない運用方法

法令状況(記事基準日:2026年8月29日):改正労働施策総合推進法による事業主のカスタマーハラスメント対策義務は、2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます。記事基準日には全国法は施行前です。2026年10月1日以後に読む場合、全国の措置義務は施行済みです。一方、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例など、記事基準日にすでに施行されている自治体条例もあります。

対象読者:顧客向け方針や苦情処理制度を設計する経営・法務・品質保証担当者
テーマ:判断基準

カスハラ対策を強める際、「苦情を言えばカスハラ扱いされるのではないか」という顧客の不安を招くことがあります。しかし制度の目的は、消費者の正当な権利を封じることではなく、社会通念上許容される範囲を超えた言動により労働者の就業環境が害されることを防ぐことです。

東京都条例は、カスハラ防止に当たり顧客等の権利を不当に侵害しないことを明確にしています。企業は、商品・サービスへの意見や苦情を受ける窓口と、暴力や脅迫などから従業員を守る手順を同時に整える必要があります。どちらか一方を消す制度設計にしません。

顧客が申し出られる内容を明確にする

品質不良、安全上の問題、契約との相違、料金、個人情報の取扱い、差別的な対応、合理的配慮などについて、顧客が意見や是正を求められる経路を示します。カスハラ方針の掲示と同時に、問い合わせ先や苦情処理の流れも案内します。

顧客へ「従業員が不快と感じる全ての言動を禁止する」とだけ伝えると、判断基準が曖昧になります。暴力、脅迫、人格否定、正当な理由のない過大要求、長時間の拘束など、許容できない手段を具体的に示し、正当な申出とは区別します。

  • 意見・苦情を受け付ける連絡先を残す
  • 許容できない言動を具体例で示す
  • 従業員の主観だけで全てを禁止する表現を避ける

応対を止めても申出内容は処理する

危険な言動が続く場合、当該担当者との対面や通話を終えることは労働者保護の手段になります。その後、管理者が書面で申出を受ける、予約した時間に複数人で対応するなど、安全な方法で内容を確認できます。

企業側の不具合や損害が確認された場合は、カスハラへの対応とは別に、修理、返金、説明、謝罪など必要な対応を行います。顧客の言動に問題があったことを理由に、自社の契約上・法令上の責任までなかったことにはできません。

  • 危険な対面・通話だけを止める
  • 別担当・書面など代替の申出経路を用意する
  • 企業側の責任は別に調査・是正する

事案ごとに相当な対応を選ぶ

軽い行き違いに強い制限をかける一方、暴力にも通常対応を続けるような一律運用は適切ではありません。言動の内容、危険性、継続性、サービスの性質、顧客が受ける影響を踏まえ、説明、警告、交代、中断、外部連携を段階的に選びます。

医療、介護、交通、生活インフラなど提供停止が生命・健康・生活へ大きく影響する業務では、職員の安全確保と必要なサービス提供の両方を検討します。代替窓口、時間・場所の変更、複数人対応など、接触方法を工夫します。

  • 行為の強度に応じた段階対応を行う
  • サービス停止が顧客へ与える影響を確認する
  • 安全な代替方法で必要なサービスを検討する

実務例:医療機関での待ち時間への苦情

患者が長い待ち時間に強く抗議し、受付職員へ繰り返し侮辱的な言葉を向けたとします。医療機関は職員を交代し、管理者が言動の中止を求めます。同時に、患者の症状と診療の緊急性を医療職が確認し、必要な医療を一律に止めません。待ち時間の説明不足があれば改善し、今後は別室や複数人で対応する方法を検討します。正当な医療上の訴えと、許容範囲を超える言動を分けて扱う例です。

実務チェックリスト

  • 顧客の意見・苦情窓口を維持した
  • 禁止する手段を具体的に示した
  • 企業側の責任を別に調査する
  • サービス特性に応じた代替対応を決めた

よくある質問

カスハラ方針を掲示すると、顧客からの厳しい意見を断れるようになりますか?

厳しい意見というだけで一律に断れるわけではありません。意見や苦情の内容を確認し、要求内容または手段が社会通念上の許容範囲を超え、就業環境を害したかを判断します。危険な応対は中断しても、正当な申出や企業側の不備は別の安全な経路で処理します。顧客向けにもその経路を案内します。

公式資料

本記事は公開日時点の公的資料をもとにした一般的な情報です。個別事案の法的判断は、弁護士・社会保険労務士などの専門家や関係機関へご相談ください。


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