カスハラの録音・録画を証拠に残す実務|保存と取扱いの基本
法令状況(記事基準日:2026年8月29日):改正労働施策総合推進法による事業主のカスタマーハラスメント対策義務は、2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます。記事基準日には全国法は施行前です。2026年10月1日以後に読む場合、全国の措置義務は施行済みです。一方、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例など、記事基準日にすでに施行されている自治体条例もあります。
対象読者:顧客対応責任者、総務、人事、法務、情報セキュリティ担当者
テーマ:証拠・初動
録音や録画は、当事者の記憶だけに頼らず発言や行動を確認する助けになります。しかし、設備を置けば自動的に有効な証拠になるわけではありません。録画範囲が不足している、時刻がずれている、上書きされる、担当者が私物端末へ保存する、社内で面白半分に共有されると、事実確認とプライバシーの双方に問題が生じます。
平常時に、何のために記録するか、利用者への案内、保存期間、取り出し権限、原本と作業用コピーの区別、外部提供の承認を定めます。録音・録画に関する法的評価は場面や方法で異なるため、秘密録音なら常に許される、撮影されたら必ず削除させられるといった断定は避け、必要に応じて法務へ確認します。
目的に合う記録方法と案内を決める
電話では通話全体を録音するか、特定窓口だけかを決め、品質改善、安全、紛争対応など利用目的を明確にします。店舗カメラは、顔だけでなくカウンター周辺の行動が確認できる一方、トイレや更衣場所など不適切な範囲を映さない配置にします。オンライン会議は録画開始前に参加者へ目的と取扱いを案内します。
掲示や音声案内は、実際の運用と一致させます。記録していないのに録音中と虚偽の説明をしたり、品質向上目的で集めた映像を無関係な宣伝へ使ったりしません。従業員が緊急時に個人端末で記録せざるを得ない場面を想定するなら、端末から会社管理領域へ安全に移し、私物側をどう扱うかも規程にします。
- 媒体ごとに記録目的・範囲・案内方法を明文化する
- カメラの死角と不適切な撮影範囲を定期点検する
- 個人端末で緊急記録した場合の移管手順を定める
上書きを止め原本性と取扱履歴を守る
案件発生後は、設備の通常保存期間を確認し、上書き前に対象時間帯を保全します。発生時刻がずれている可能性を考え、前後に余裕を持った範囲を確保します。原本ファイルは編集せず読み取り権限を限定し、音量調整、字幕、切出しが必要なら作業用コピーで行い、作成者、日時、処理内容を記録します。
ファイル名には案件番号、媒体、対象日時を用い、顧客や従業員の氏名を不用意に並べません。保存先、取り出した人、閲覧した人、外部へ渡した相手を記録します。ファイルのハッシュ値など改変検知の方法も、重要案件の手順として検討できます。録画の一部だけで結論を出さず、死角、音声欠落、前後の文脈も確認します。
- 保存期限を確認し発生時刻の前後を含めて保全する
- 原本は編集せず加工は作業用コピーで行う
- 取得・複製・閲覧・外部提供の履歴を残す
閲覧範囲を限定し他の証拠と照合する
録音・録画には、無関係な顧客、健康情報、カード画面、私的会話が含まれる場合があります。事実確認に必要な責任者、法務、警察等へ範囲を限定し、研修で利用するときは必要な同意や匿名化を検討します。被害担当者へ何度も再生させず、記憶確認が必要な部分を絞って心理的負担を減らします。
映像だけを万能視せず、対応記録、メール、電話履歴、目撃者、破損物、受診記録と時系列で照合します。映っていないことは起きなかったことを意味しません。案件終了後は、法的手続や再発リスクに必要な期間を法務等と確認し、期限を過ぎたデータを規程に沿って削除します。保全指示がある間は通常削除を停止します。
- 無関係な個人情報を含む記録の閲覧者を限定する
- 被害者に繰り返し映像確認を求めない
- 他の記録と照合し保全指示中は通常削除を停止する
事例:防犯映像が三日で上書きされる店舗
接客中の威嚇を翌日に報告された際、店舗責任者は映像が三日で上書きされると確認し、発生前後一時間を直ちに保全しました。原本を権限制限された領域へ置き、説明用の切出しは複製から作成して処理履歴を残しました。レジ記録、担当者メモ、目撃者の記録と照合し、無関係な来店客が映る映像は広い社内共有をしませんでした。
実務チェックリスト
- 録音・録画の目的、案内、範囲、保存期間が決まっている
- 上書き前に原本を保全できる担当者が指定されている
- 原本と加工コピーを区別し取扱履歴を残している
- 無関係な個人情報と被害者の心理負担へ配慮している
よくある質問
従業員が自分のスマートフォンで録音してもよいですか?
緊急時の記録が必要な場合はありますが、私物端末への保存は漏えい、私的利用、原本管理の問題を生みます。まず会社支給機器や既存設備を使えるようにし、やむを得ず個人端末を使った場合の報告、会社管理領域への移管、端末側データの取扱いを規程化してください。録音方法の法的な適否は状況に応じて法務へ確認します。
公式資料
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(改正法成立前に作成された実務資料)
- 厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
- 厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年4月24日)
本記事は公開日時点の公的資料をもとにした一般的な情報です。個別事案の法的判断は、弁護士・社会保険労務士などの専門家や関係機関へご相談ください。
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