介護・福祉現場のカスハラ対策|利用者・家族対応と職員保護
法令状況(記事基準日:2026年8月29日):改正労働施策総合推進法による事業主のカスタマーハラスメント対策義務は、2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます。記事基準日には全国法は施行前です。2026年10月1日以後に読む場合、全国の措置義務は施行済みです。一方、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例など、記事基準日にすでに施行されている自治体条例もあります。
対象読者:介護施設、障害福祉事業所、訪問介護などの管理者・サービス提供責任者・人事担当者
テーマ:業種別対策
介護・福祉の現場では、生活の場へ継続的に関わるため、利用者本人だけでなく家族との接点も多くなります。ケア内容や訪問時刻への不満、契約外の家事要求、職員への暴言・性的言動が続いても、「支援職だから我慢すべき」と個人へ負担を集中させてはいけません。
2026年10月1日の改正法施行に備え、利用者の状態や支援の必要性を丁寧に確認しながら、職員の安全を守る仕組みを整えます。支援を直ちに打ち切るか耐え続けるかの二択ではなく、担当交代、二名訪問、支援計画の見直し、関係機関との連携など段階的な選択肢を用意します。
症状・生活背景と許容できない行為を分ける
認知機能の変化、疾患、意思疎通の難しさ、生活上の不安が言動に影響することがあります。背景を評価してケア方法を調整することは重要ですが、職員への殴打、身体を触る行為、差別的な罵倒、家族による長時間の叱責まで当然に受け入れることにはなりません。行為の前後、頻度、きっかけ、危険性を具体的に記録します。
利用者本人と家族の要求も分けます。本人の生活上必要な支援、契約で予定されたサービス、善意で行っていた追加作業を整理し、できること・できないことを説明します。説明不足や職員ごとの対応差が要求を拡大させている場合は、契約内容や支援計画を再確認し、チームで共通の対応にそろえます。
- 言動の前後、頻度、健康状態、危険性を事実として記録する
- 利用者本人のニーズと家族からの要求を分けて整理する
- 契約内の支援、調整可能な支援、対応できない要求を明確にする
施設と訪問で異なる安全策を用意する
施設では、応援を呼ぶ合図、ほかの利用者を離す動線、危険物になり得る物品の配置、夜勤責任者への連絡を定めます。居室でのケア中に危険を感じたら、必要な安全を確保しつつ一度退出できる権限を共有します。同じ職員だけが標的になっている場合は、相性の問題として片付けず、担当交代や二名対応を検討します。
訪問では、訪問前のリスク情報、到着・退出の連絡、一定時間を超えた際の確認、緊急時の合図を準備します。家族が玄関を塞ぐ、職員の私物を撮影する、契約外作業が終わるまで帰さないといった場合に、管理者へ連絡し安全に退出する手順を訓練します。一人で解決や説得を完了させることを求めません。
- 施設では応援要請、他利用者の誘導、夜勤時の責任者連絡を決める
- 訪問では到着・退出確認と、予定超過時の安否確認を仕組みにする
- 危険時にケアを一時中断して距離を取れることを職員へ明示する
支援継続をチームで再設計する
事案後は管理者、ケア担当、相談支援担当などが事実を共有し、支援時間、環境、担当人数、コミュニケーション方法を見直します。本人への説明が可能なら、困っていることを確認したうえで、許容できない行為と今後の対応を具体的に伝えます。家族には、苦情窓口と職員への直接連絡の境界を示します。
安全上の理由でサービス条件の変更や継続可否を検討する場合は、利用者の生活への影響が大きいため、組織内の責任者だけで即断せず、契約、個別事情、代替支援、関係機関との調整を含めて慎重に進めます。法的な評価が必要なケースは専門家へ相談します。被害職員には休養、相談、配置上の配慮を行い、報告したことによる不利益を生じさせません。
- 支援計画、担当人数、訪問時間、環境調整を事案後に再検討する
- 苦情の受付先と、職員個人への直接要求の境界を家族へ示す
- 継続条件の変更は代替支援や専門家相談を含め組織で判断する
事例:訪問職員へ契約外の作業を繰り返し要求された場合
訪問のたびに家族から予定外の清掃を求められ、断ると職員を長時間罵倒する状態が続きました。職員の報告を受けた管理者は、訪問を二名体制へ一時変更し、本人の支援に必要な作業と契約範囲を再確認。家族との面談では相談窓口を一本化し、侮辱が続く場合は訪問を中断して管理者へ連絡する方針を伝えました。
実務チェックリスト
- 症状や生活背景と、職員に対する具体的な危険行為を分けて記録できる
- 施設・訪問それぞれに応援要請と退避・退出の手順がある
- 担当交代、二名対応、支援計画見直しの判断者が決まっている
- 報告した職員への休養・相談・配置配慮と不利益防止を徹底している
よくある質問
認知症などが背景にある言動もカスハラとして対応できますか?
背景や意思疎通の状態を丁寧に評価し、ケア方法を調整する必要がありますが、職員の安全を犠牲にする理由にはなりません。属性だけで一律に判断せず、行為、頻度、危険性を記録し、二名対応や環境調整を検討します。支援条件の変更は利用者への影響も踏まえ、関係者と慎重に判断してください。
公式資料
- 厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
- 厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年4月24日)
- 厚生労働省「改正労働施策総合推進法等の概要」
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(改正法成立前に作成された実務資料)
- 東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」
本記事は公開日時点の公的資料をもとにした一般的な情報です。個別事案の法的判断は、弁護士・社会保険労務士などの専門家や関係機関へご相談ください。
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