職場における「対人トラブル」の調整方法

組織は、考え方の異なる人間同士で構成されています。そのため、当然のように相性の良し悪しが生じます。決定的な問題にならなければ個人の問題として済むこともありますが、業務に支障が出る場合はそうはいきません。

本記事では、法人経営者であり、公認心理師・臨床心理士・キャリアコンサルタントでもある筆者が、「職場内の対人トラブルの調整方法」について解説します。

◆こんな方におすすめの記事です

  • いがみ合っている職員がいる
  • 人間関係にどこまで立ち入っていいか分からない
  • 人間関係が悪い職員同士を、どう処遇していいか分からない

「対人関係」はトラブルのもと

人間が複数集まると、多かれ少なかれトラブルはあるものです。男女間でも、男性同士でも女性同士でも、性別は関係ありません。

私の臨床現場のスタートは、少年院でした。体格は中肉中背で、決して屈強なほうではありませんから、十代後半の少年たちのなかには「本気でかかってこられたらかなわないな」と体感として分かる相手も少なくありませんでした。それでも、規則をいいかげんにすることはできず、更生を促すべく対応するしかありません。私の心理技術の多くは、自分自身がぎりぎりの立場に置かれていた現場での、相手の心理把握と働きかけを通じて身についたと思っています。

少年たちは、それまでの成育歴などから人間不信が強い傾向があり、対人トラブルが非常に多いものでした。「なんだか嫌な目で見てくる」といってはケンカを吹っかけたり、同じ居室での共同生活ゆえに些細なことで気に入らないことがあったり、逆になれ合いから規則違反をしようとしたりと、本当にさまざまな人間関係の形を、しかも非常に「濃い」かたちで目の当たりにしました。

対人関係は、私たち社会人にとっても、職場のストレスの重要な部分を占めています。組織のなかでも、グループ化やいじめ、ハラスメントなどの問題は少なくないでしょう。

私の現在の職場は福祉関係の法人で、シフト勤務でさまざまな職員が入れ替わります。難しいのは連絡調整の場面で、「こう連絡したのに違うようになっていた」「そんなふうには聞いていない」といった、一対一の人間関係というより「言った・言わない」「意味が伝わらない」というトラブルが時々起こります。ただ、退職する人がほぼいない職場なので、基本的には大きく対立したり根深くなったりすることはありません。そうならないよう、必要なときには「対人調整」を行っているのです。ここからは、必要な脚色を加えたうえで、その事例をご紹介します。

「対人調整」の事例

何年か前、パートで入っていた職員が、ある女性職員の態度が気に入らないとして、その職員に「馬鹿にしているのか」と暴言を投げかけたことがありました。その女性職員は私のところに駆け込んできて、「もう仕事していられません、辞めます」と感情的になっていました。周りで見ていた職員も数名いたため、一人ずつ呼び出して様子を聞いていきます。

状況としては、午後から現場に入ったパート職員に対し、女性職員が午前中の様子を引き継いでいたとのこと。そのときの言い方が気に入らないとして、パート職員が腹を立てた——この状況だけ聞くと、大人げないと評されてしまいそうな場面です。

ところがパート職員を呼び出して話を聞くと、前段階があったようでした。「自分の身内が亡くなったとき、その女性職員は香典をよこさなかった。ほかの職員の身内が亡くなったときには香典を出していたのに。自分は馬鹿にされているんです」というのです。

対処方法

皆さんなら、どのように対処するでしょうか。私はまず、心理職として次のように返しました。「そういう背景があったことは存じませんでしたが、ご自身としては、大切な身内を亡くされたことはもちろん、同僚にその悲しさを理解してもらえなかったことが悔しかった、ということですね」。

「その通りだ。絶対に許さない」とその職員は言います。そこで、こう続けました。「けれども、各個人の事情を仕事の現場に持ち込まれては、私は指導・注意をせざるを得ません。その女性職員をあなたがどう思おうと、それは自由です。許さなくても仕方ありません。ただ、その態度を職場に持ち込んで業務に支障が出た場合は、あなたの責任を問うこともあり得ます」。

ポイントはここです。人間関係そのものに、私たち管理職が立ち入るものではありません。それは個人の心情の問題であり、「仲良くしなさい」という学校のような場とは違います。けれども「業務に支障が出る」という客観的な状況が生じるなら、それは「仕事として」注意・指導します。

多くの管理職にとって、こうした介入は面倒で、できれば避けたいことの一つでしょう。しかし、管理職が「個人のことだから」と逃げてしまうと、ほかの職員からの信頼も失ってしまいます。

このことに納得してもらったあと、「心情はお察ししますが、今後どうされますか」と聞くと、「分かりました。たしかに大人げなかったと思います。許しはしませんが、今後は職場でそうした態度はしないとお約束します」との答え。「そのことを、女性職員との話し合いでも伝えられますか」と確認すると、「分かりました。お約束します」と応じてくれました。

パート職員との話がまとまったところで、泣いていた女性職員を呼び出します。先ほどパート職員が話していたことを、多少やわらかくして伝えました。具体的には、次のような内容です。

  • 身内が亡くなったとき、共感してもらえなかったように感じたこと。
  • 職場でその感情を出したことについては、反省していること。
  • 今後は職場でそうした態度を出さないと約束すること。

「そう聞いて、どう思いますか」と尋ねると、女性職員は、まさか自分が香典を渡していなかったことでそんな関係になっていたとは思いもよらなかった様子でした。「それが原因なのだったら、決してそんなつもりはなかったとお伝えしたいです。ただ、職場でああいうことを言われると私も困るので、それはやめてほしいです」と話してくれました。「では、そのことをお話しできますか」と確認すると、「分かりました」との答え。

この状態で、はじめて二人を同席させます。私が間に入り、現場で起きたことに間違いがないかを確認し、個別に聞いた事項をもう一度二人の前で話します。「そうでしたよね」と確認すると、二人ともうなずきます。そのうえで、それぞれ付け足したいことを順に話してもらいました。

「大人げないことを言いましたが、先ほどお話しした通り、今後はそうしたことはしません。すみませんでした」。「香典のことは悪意があったわけではなく、すみませんでした。でも、今回のようなことはとてもショックで……。こういうことはやめてほしかったです」。そのあとしばらく、言葉と感情の推移を見守ります。

最後に、こう確認します。「ここから出て現場に戻ったら、今回の話はぶり返さない。ほかの職員に対しても、お互いの悪口めいたことは言わない。それでいいですね」。この確認が大切です。そして、「では終わりますので、お二人とも立ってください。今後ともよろしくお願いします」と挨拶を交わし、三者で解散しました。

非常に面倒な手順に感じられるかもしれませんが、対人トラブルがあるときには、必ずこのような調整を行っています。

まとめ

全体の所要時間は、40分ほどでしょうか。私自身も執務時間を取られるため、できれば避けたいことではあります。しかし、「こうした職場の人間関係から逃げない」ということは、常に意識しているところです。私が運営する組織では、こうした対人調整が、職場の風土をつくるうえで非常に重要だと考えています。

(KIRIHARE所属 臨床心理士)

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