メンタルヘルス対策の基礎知識

従業員の健康は、一人ひとりの対策と、事業所が行う対策の両方が必要です。メンタルの調子を一度崩してしまうと、回復までに時間がかかることも珍しくありません。メンタルの不調は個人の問題ではなく、事業所全体の問題でもあります。そのため、事業所も日ごろから従業員のメンタルヘルス対策を行うことが大切です。

ここでは、事業所が行う基本的なメンタルヘルス対策を解説します。メンタルヘルス対策とは何かを知り、従業員の健康と職場環境の改善のため、正しく実施しましょう。

メンタルヘルスとは?

日常的に聞くことが多くなった「メンタルヘルス」という言葉は、そもそも「心の健康」を表します。厚生労働省は、メンタルヘルスを次のように定義しています。

精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう。

(厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」より)

メンタルヘルスは、うつ病や双極性障害などの病気だけでなく、不安感や気分の落ち込み、ストレスといった、診断がつかないレベルの状態も含みます。時代の流れとともに、メンタルヘルス不調は増加傾向にあります。原因はさまざまですが、職場が原因となっていることも珍しくありません。職場が原因の場合は事業所の努力が必要になるため、メンタルヘルス対策はとても重要です。

メンタルヘルス不調を放置するリスク

メンタルヘルス不調は、個人だけの問題ではありません。2019年に公表された「労働安全衛生調査(実態調査)」では、仕事や職業生活で強い不安やストレスを感じた労働者は58.0%にのぼり、その最大の原因は「仕事の質・量」であることがわかっています。職場で半数以上の従業員が強いストレス状態にあることを放置するのは、企業にとっても大きなリスクです。対策が後手に回ると、次のようなリスクが生じます。

①生産性に影響する

強いストレスを受け続けたり不安を抱えていたりすると、考えがまとまらず行動できなくなります。メンタルヘルス不調により脳の機能が低下し、判断や集中が難しくなり、意欲や好奇心も薄れていくためです。職場で不調者が1人いるだけでも、その従業員が担当する業務はスムーズに進まなくなります。職場全体に広がれば、業務の質や活力、生産性が低下し、他の部署に影響する可能性も否定できません。上司や同僚は個人の問題と捉えず、職場全体の問題として対策していくことが大切です。

②対策を怠ると長期化しやすい

気づかないうちに調子が悪くなるメンタルヘルス不調は、対策を怠ると長期化することも珍しくありません。最初は「ただの疲れ」「気のせい」「そのうち治る」と考えて対策をしないことがあります。従業員1人が休職した場合の損失は、その従業員の年収の3倍になるともいわれます。また、メンタルのバランスを崩すと、安定して働けるようになるまでに「崩していった期間と同じだけの期間がかかる」ともいわれ、数か月、長い人では年単位の時間を要します。業務の質や職場の雰囲気の低下だけでなく損失も発生するため、不調者を出さないための対策が重要です。

職場のメンタルヘルス対策に必要な「3つの予防」

メンタルヘルス対策に必要な考え方は、「3つの予防」と「4つのケア」です。まずは「3つの予防」から見ていきましょう。一次予防・二次予防・三次予防と段階的に分かれており、それぞれで行うことが異なります。

1. 一次予防:未然防止

メンタルヘルス不調に限らず、体調不良は「未然防止」が大切です。とくにメンタルヘルスは体調が安定するまで長期化することもあるため、未然防止が重要です。一人ひとりがストレス発散を行い、職場は業務内容の見直しなどの改善を行う段階です。事業所としては、ストレスマネジメント研修やストレスチェックの実施が一次予防に該当します。これらは意識づけの動機にもなるため、積極的に行いましょう。ハラスメント窓口の設置や安全衛生委員会の実施も大切です。

2. 二次予防:早期発見

二次予防は「早期発見」の段階です。不調が表れ始めている従業員を見つけ、適切に対応します。早期発見の段階であれば、本人も自発的に適切な行動をとりやすく、周囲の話も素直に聞き入れてくれます。対策はセルフケアだけでなく、産業医や保健師との面談、職場環境の改善などがあります。本人が選択できるよう、周囲は方法を提案しましょう。また、同僚だけでなく上司にも相談できる雰囲気や人間関係づくり、「助けて」と声を上げられる環境づくりも大切です。

3. 三次予防:職場復帰支援

どれだけ対策や早期発見をしても、体調が悪くなったら無理せず休職することも一つの方法です。多くの本人は休職を嫌がります。体調が悪いときに休職という大きな決断をさせることは、本人にとってストレスです。しかし、体調が悪いまま働くと業務中の事故につながったり、業務が滞ったりするため、休職は大切です。

休職した本人は、体調が悪いにもかかわらず仕事が気になったり、収入の減少に焦ったりしています。産業医・保健師・上司・人事は、焦りを軽減して療養できるよう、声かけや業務内容の見直し、休職中の補償の段階的な説明などで本人の気持ちに寄り添いましょう。焦って復職すると、さらに体調が悪化して再休職することもあります。三次予防は最終段階のため、対応をおろそかにせず、時間がかかっても周囲も焦らず、従業員の体調に合わせて少しずつ進めていきましょう。

忘れてはいけない「4つのケア」

「3つの予防」に加えて「4つのケア」を行います。それぞれにポイントがあるため、しっかり押さえることが大切です。

1. 個人が行う「セルフケア」

セルフケアとは、労働者自身がストレスを予防し、気づいたときに適切に対処することです。正しい知識がないとうまく対処できないため、事業者は情報提供や教育研修でサポートします。気づきを促す方法の一つがストレスチェックの実施です。以下は、メンタル不調の初期段階に表れる症状の一例です。簡易的な判断材料としてご参照ください。

  • 体に表れる変化:頭痛、だるさ、寝つきの悪さや途中で目が覚めるなどの睡眠の変化、肩こり・首こり、食欲の変化(減退・過食)、発汗、アルコールやたばこの増加
  • 精神面に表れる変化:やる気や集中力の低下、イライラ、不安、怒りやすさ、急に悲しくなるなどの感情の変化
  • 行動面に表れる変化:遅刻・欠勤の増加、仕事上のミスの増加、人付き合いが悪くなる、攻撃的になる、趣味が楽しめなくなる

※2週間~1か月以上、上記のような状態が続く場合は要注意です。セルフケアのやり方に決まった型はありません。職場内では深呼吸・ストレッチ・研修やストレスチェックでの自己把握、日常生活では十分な休息と睡眠・気分転換(ドライブ、スポーツ、音楽鑑賞など)・周囲への相談などが、比較的誰でも取り組みやすい方法です。

2. 管理監督者が行う「ラインによるケア」

本人が気づくことも大切ですが、並行して、管理監督者が職場のストレス要因を把握・改善していくことも必要です。管理監督者は部下の相談に乗り、必要に応じて労働環境の改善などを行います。具体的には、①メンタルヘルス対策の重要性を理解する、②部下との良好なコミュニケーションを心がける、③部下の変化に気づき早期発見できる目を持つ、といった点です。事業所としては、管理監督者が正しい知識と対処方法を身につける研修や、部下の話を聞くための傾聴訓練を行いましょう。最初に行うべきは、管理監督者自身の理解を醸成する研修です。

3. 事業所内の「産業保健スタッフによるケア」

産業医や衛生管理者などの産業保健スタッフによる支援です。主に、セルフケアやラインによるケアの支援、職場環境改善のためのアドバイス、個々の相談対応、相談体制(ネットワーク等)の整備、メンタルヘルス関連の教育研修の企画・実施などの役割があります。医師や産業保健師は人事・業務関係に詳しくなく、人事・労務担当者は医療関係に詳しくありません。だからこそ、関係部署が連携して取り組むことが大切です。

4. 外部連携による「事業場外資源によるケア」

メンタルヘルスケアの専門知識を持つ外部機関やサービスを活用することです。社内に産業保健スタッフがいても、「査定に影響しないか」「上司に伝わらないか」などの心配から、社内の人に相談したくないと考える従業員もいます。そのようなときに外部機関やサービスを活用することで、専門的な見地から課題を解決できます。代表的なものに、EAP(従業員支援プログラム)、地域産業保健センター、産業カウンセラーなどがあります。

家族と同居している従業員に対しては、家族と連携することも外部支援の一つです。事業所側の説得では受診しない場合でも、家族の協力で受診の可能性が広がります。ただし、本人と家族の関係性が良好でない場合や家族が連携を拒む場合は、無理な連携は控えましょう。連携する場合は、一緒に対応していく旨を伝えます。

メンタルヘルス対策の基本的な取り組み4つ

メンタルヘルス対策は、不調者が出る前の段階から実施することが大切です。とはいえ選択肢が多く、何から始めればよいか迷うものです。厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」のなかで、有効な取り組みを示しています。ここでは、その中から推奨される4つの取り組みを紹介します。

1. ストレスチェックの実施

2015年に、事業所の義務として「ストレスチェック制度」がスタートしました。これは、ストレスチェックと、結果に基づく希望者への面談指導の実施、集団ごとの結果の集計・分析による職場環境の改善など、一連の取り組みです。従業員は自分のストレス状況を把握でき、事業所は職場単位でのストレス状況を把握できます。数値やグラフで知ることで、必要な対策をとるきっかけにもなります。実施人員の確保が難しい場合は、ストレスチェックの実施業務を代行するサービスの活用も有効です。

2. 産業医と連携する

産業保健師などの産業保健スタッフだけでは解決しない問題もあります。医療機関への紹介状や意見書の作成は産業医でなければできません。産業医の主な役割は、健康診断の実施・結果への対処、長時間労働者の面接指導、ストレスチェックの実施などです。病気の診断や薬の処方は行わず、適切な医療機関の紹介や休職者の復職判断などにより、労働者の心身の健康をサポートします。なお、労働安全衛生法では、労働者が50人以上いる事業場に産業医を選任することが義務づけられており、50人未満の場合は努力義務となっています。

3. 従業員支援プログラム(EAP)の活用

EAP(Employee Assistance Program)には、事業所内の産業医や産業保健師などによる「内部EAP」と、事業所が依頼する外部機関やサービスによる「外部EAP」があります。当社もEAPを提供している会社の一つです。外部EAPは特徴や料金が異なるため、予算や自社に合ったものを選びましょう。当社サービスの詳しいご案内や資料請求は、以下のURLからご確認いただけます。

https://kirihare.jp/biz/

4. ストレスマネジメント研修などの実施

ストレスという言葉は知っていても、症状や対応方法を知らない人がほとんどです。また、部下と上司では対応方法や声かけが異なることもあります。そのため、立場に合わせた内容や全体的な内容で研修を行います。ストレスマネジメント研修は、小規模事業場でも比較的導入しやすい取り組みです。メンタルヘルスの重要性や基礎知識を労働者・管理監督者に教育することで、意識の醸成と不調予防につながります。場合によっては、リーフレットやDVDなど各種媒体での実施も推奨されています。マンパワーに課題があれば、外部機関・サービスへの委託も効果的です。外部委託の場合、基本料金に往復の交通費がかかることもあるため、事前に総額を確認しましょう。対象者や講義内容の希望も忘れずに伝えてください。

メンタルヘルス対策の基礎を知り、従業員の健康を守ろう

さまざまな年代が働く事業所では、考え方も仕事への姿勢も異なります。同じ業務でもストレスの感じ方は違い、体調への表れ方も異なります。ゼロにできないストレスは溜めないことが一番ですが、万が一溜めてしまった場合に起きる症状を知っておくことも重要です。事業所として、ストレスチェック制度を活用したり、ストレスマネジメント研修を行ったりしましょう。

大切なのは、一次予防・二次予防・三次予防からなる「3つの段階」と、それぞれの段階に適した「4つのケア」です。メンタルヘルス対策の基礎を知り、従業員の健康を守りましょう。