ADHDのある従業員への理解と配慮|人事・管理職が知っておきたいこと

発達障害の一つであるADHDのある従業員は、整理整頓や片付け、複数の業務を順序立てて進めることに苦手意識を持つ場合があるといわれています。本記事では、人事担当者や管理職が、こうした特性を「だらしなさ」と誤解せず、職場でどう理解し、配慮すればよいのかを整理します。多様な特性を持つ人材が力を発揮できる職場づくりは、人事の重要なテーマの一つです。

片付けは「決断の連続」である

片付けや書類整理を苦手と感じている従業員は少なくありません。普段何気なく行っている片付けは、実は「これはどこにしまうのか」「必要なものなのか」という判断や決断の連続です。ADHDのある方は、こうした頭の中の整理を求められる場面で混乱が生じやすいとされています。

たとえば、作業中に机の上が散らかったとします。周りからすれば「終わったら片付ければよいのに」と思うかもしれません。しかし本人は、次の業務や目の前の情報に意識が移り、直前まで行っていたことが頭から抜けてしまうことがあります。その結果、「片付ける」という行為自体が抜け落ちてしまうのです。これは「片付けない」というより、「片付ける状況ではなくなっている」と表現したほうが近いかもしれません。職場では、こうした特性が「仕事の段取りが悪い」と誤解され、本人にとって不利な評価につながりやすい点に注意が必要です。

「片付けられない」を正しく理解する

「片付けられない」と聞くと、極端な状態を連想する方もいるかもしれませんが、ADHDのある方の「片付けられない」状態は、物をため込んでしまうケースとは背景が異なります。脳の働き方の特徴によるものであり、本人の怠慢や意欲不足ではありません。人事・管理職がこの違いを理解しておくことが、誤解に基づく不当な評価を避ける第一歩になります。

「自覚」と「周囲の理解」が対処の鍵

本人が自分の特性を自覚しているかどうかは、とても大切な点です。自覚があれば対処を工夫するきっかけになりますが、自覚がないまま「単にだらしない人」と受け止められると、評価が下がったり人間関係に影響したりすることがあります。叱責が繰り返されることで、自信を失い、悪循環に陥ってしまうこともあります。実際、職場のデスクが片付かず「だらしない」と思われ、人間関係が悪化して退職に至ってから、ADHDと診断されたという例もあります。

管理職は、特性を頭ごなしに責めるのではなく、本人が力を発揮しやすい環境を一緒に考える姿勢が求められます。職場でできる配慮としては、次のような工夫が挙げられます。

  • やることをリスト化・可視化し、優先順位を一緒に整理する
  • 「ここだけは整理する」という定位置や定型ルールを決める
  • 複数の業務を同時に振らず、一つずつ依頼する
  • こまめに声をかけ、抜け落ちを早めにフォローする

「片付けられない」背景にあるもの

ADHDのある方が整理整頓を苦手とする背景には、たとえば次のようなものがあるとされています。これらを知っておくと、管理職は本人の行動を「意欲の問題」ではなく「特性によるもの」として捉えやすくなります。

  • 元に戻そうとは思っていたのに、忘れてしまう
  • そもそも、使っていたこと自体を忘れてしまう
  • 捨てるかどうかを決められなくなってしまう
  • どう片付ければよいか判断がつかず、後回しにしてしまう

ある意味で、本人の意思とは違うことが起きてしまうのです。目に飛び込んできた次の情報に意識が向き、何をしようとしていたかを思い出せないまま作業が中断してしまう。あるいは、残すべきか処分すべきかの判断がつかず、後回しになってしまう。こうした特性は、ADHDのある方でなくとも思い当たる場面があるものですが、その傾向が強く出ることで、職場では「段取りが悪い」と受け取られやすくなります。

本人の工夫を後押しする

苦手だと自覚したうえで、それをカバーする工夫をしながら活躍している人はたくさんいます。やることをリスト化して目に見えるようにする、「ここだけはいつも整理する」というポイントを決めるなど、それぞれにアイデアを駆使して対応しています。管理職は、こうした本人なりの工夫を否定せず、むしろ後押しする立場で関わることが大切です。

注意したいのは、無理のある計画では同じことの繰り返しになりがちな点です。「すべてを完璧に」ではなく、「机の上だけは整える」「迷ったらいったんまとめておく」など、本人が続けられる小さなルールから始められるよう支援するとよいでしょう。周囲からこまめに声をかけてもらえる環境があると、一つずつ着実に進めやすくなります。

周囲の理解が、働きやすさにつながる

ADHDは外見からわかるものではなく、本人すら自覚していない場合も少なくありません。「少し忘れ物が多い」「片付けが苦手」という程度にしか考えていないことも多く、失敗を繰り返すなかで初めて気づくケースもあります。だからこそ、職場の側が表面的な行動だけで人物を判断しないことが大切です。脳の働き方に特徴があるだけで、本人の能力や誠実さを否定するものではありません。

本人にとって、自分の特性を職場で伝えるのは簡単なことではありません。信頼できる上司や人事に伝えて理解してもらえたなら、それは大きな安心につながります。人事・管理職は、従業員が特性を打ち明けやすい雰囲気を整えておくことも、重要な役割の一つです。

多様な特性を持つ従業員が安心して働ける職場は、結果として組織全体の生産性や定着率の向上にもつながります。人事・管理職が正しい知識を持ち、特性に応じた配慮と環境づくりを進めることが、誰もが力を発揮できる職場への第一歩だといえるでしょう。