「それってハラスメントですよね」といわれないための小技3つ
ハラスメントに関するマニュアルや書籍をいくら読んでも、こんなふうに感じたことはないでしょうか。
- 「え、これがハラスメント?」
- 「これって今も言っているよね」
- 「ダメなことはたくさん載っているけど、全部ダメに見える」
2022年4月からは、いわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)により、中小企業を含むすべての事業主にハラスメント防止措置が義務づけられました。とはいえ、「何がダメなのか」を並べたマニュアルだけでは、実際の現場で迷ってしまうこともあるでしょう。本記事では、法人経営をしながら公認心理師・臨床心理士・キャリアコンサルタントとしても活動する筆者が、「それってハラスメントですよね」といわれないための、ちょっとした小技を3つご紹介します。
この記事は、こんな方におすすめです。
- 従業員とのかかわりがすべてパワハラになってしまいそうだと感じる
- 「感情的にならないのがポイント」といわれても、うまくいかない
- ダメなことは分かるけれど、どうしたらいいか分からない
「ダメ」ばかりでは現場は動けない
ハラスメントを扱う書籍を見ていると、「あれはダメ、これもダメ」と、とにかくダメなことばかりが列挙されています。もしこれがひと昔前の学校などに当てはめられたら、ほとんどの教師がパワハラになってしまうのではないか——そう感じるほど、「ダメ」とされていることが多いのが実情です。
もちろん、理解が進めば「確かにそうかもしれない」と納得できるものの、私たちは人間です。とくに管理職の立場で、部下に任せた仕事に大きなミスがあったとき、いつでも冷静に「今回のミスの原因を聞かせてもらえますか。それを〇日までに修正できますか。期待していますからね」とばかりは言っていられないものです。
筆者自身、かつて新人だった頃には、先輩から厳しい言葉をかけられたこともあります。しかし、それをパワハラだとは思いませんでした。実際に自分の仕事ぶりに足りない部分があるという自覚があったうえ、何より、その先輩たちが日常的に面倒見がよく、気さくな人たちだったからです。
さまざまなハラスメント関連の書籍を見ていて、基本的な視点が少し抜けていると感じるのは、まさにこの部分です。私たちは、ある業務上の目的のために「会社」をつくり、人が集まって取り組んでいます。しかし「会社は業務目的のために人が集まる場所だから、人間関係は一切ありません」とするのは現実的ではありません。もしそれが理想なら、そもそも「人」を集める必要はないはずです。
コロナ禍でテレワークを経験し、「実は会社に集まって仕事をする必要がなかった」と気づいた会社もありました。SNSでは「会社の人間関係から抜け出せて楽になった」といった投稿も多く見られました。おそらく、そうした職場では「パワハラ」への意識もシビアになっているのかもしれません。
ポイント1 人間関係を改めて考え直す
パワハラを防ぐ基本的な考え方の一つは、人間関係をどのように持つかを改めて考え直すことです。
最近は心理学のテクニックを使った「アンガーマネジメント」の研修もありますが、筆者が個人的に有効だと感じているのは、他の従業員に対して、まず次のように伝えておくことです。
「ごめんなさい。先に謝っておくけれど、どうも怒りっぽいところがあって、もしかすると『それってパワハラだろ』ということを思わず言ってしまうかもしれません。気づかずに言ってしまうこともあるので、もし『それはないだろう』ということを言ってしまったら、後からでもいいので教えてほしいです」
このように、あらかじめ伝えておくのです。もちろん、そう言ったうえで何度も繰り返せばハラスメントになってしまいます。また、「制度化された」と知ったとたんに急に態度を変えれば、「なんだ、パワハラだと自覚してやっていたのか」と、かえって信頼を失いかねません。あくまで日頃の関係づくりが土台になります。
ポイント2 「前置き言葉」を上手に使う
2つ目は、「前置き言葉」を上手に使うことです。
カウンセリングでは、「普通そこまで聞く?」ということも、時と場合によっては涼しい顔をして尋ねることがあります。とはいえ「なんでそんなことを話さないといけないんだろう」と嫌な思いを抱かれては困るため、ハラスメント対応で重要なポイントの一つである「強制しない」姿勢を大切にしています。
たとえば、「このばか野郎!」と言えばアウトでしょう。しかし、こう言い換えるとどうでしょうか。
「パワハラと思われても困るから、あえて言わないけれど、そんな調子だと、私みたいに人間ができていないと、思わず『馬鹿野郎』と言いたくなってしまうんだよ」
「あえて言わないけれど……」と前置きしつつ、自己開示、つまりアサーション(自分の感情を率直に、かつ相手を尊重して伝える方法)として、自分の気持ちを伝達する言い方です。これはカウンセリングでも、「そう言われると、私は〇〇と思います」というように、相手に自分の感情を伝える際に用いられます。
たとえば、クライアントから「私は先生のことがどうも好きではないんです」と言われたとき、「私だって嫌ですよ」とは言えません。そこで「あなたが嫌いだということは分かりました。そう言われると、私もあまりいい気分はしませんが……」と、あくまで対等の立場として述べ合うわけです。
先ほどの「私みたいに人間ができていないと」も前置き言葉です。「部長として言うが」「お前の上司として言わせてもらうが」と自分を相手より上に置くのではなく、「人間ができていない」と自分を少し下げて言うことで、「上から目線で言われた」という印象を与えにくくする方法です。周囲で聞いている人がいても、「上の立場から言われた」とは感じにくいでしょう。
ポイント3 「時間」を意識する
最後の3つ目のポイントは、時間です。ここでいう時間には、2つの意味があります。
- 長話をしない
- 回数を多くしすぎない
筆者が重視しているのは、おおよそどの従業員とも同じくらいの時間だけ話すようにすることです。週単位で考えることが多いかもしれません。そうしないと、「あの人には甘い」「この人には厳しい」「差別している」といった印象を抱かれやすくなるためです。
また、あまり話したくなさそうな従業員や、もともとコミュニケーションが得意でない従業員には、通りがかりにのど飴を渡したり、希望者にコーヒーを入れたり(もちろん「飲まない」という選択もできます)といった、ちょっとした関わりを大切にしています。自分も少し楽しみながら、職員との雰囲気を確かめているのです。
まとめ
「これはハラスメントです」というマニュアルには、ダメな事柄がたくさん書かれています。確かにダメだと思うものもあれば、「これもダメなの?」と思うものもあります。なぜそうなるかというと、こうしたマニュアルは「人間関係」を基本に置くのではなく、「業務体としての会社」すべてに当てはまるように作られているからでしょう。
ハラスメント対策は義務ですから、すべての事業所で取り組まなければなりません。それを、組織内の人と人との結びつきやあり方を、今一度見つめ直す機会ととらえてみてはいかがでしょうか。
「いやぁ〇〇さん、わざとじゃないと思いますけど、そう言われると私だって傷つくんですよ」 「え、そうなの。ごめんごめん、言い方を間違えたわ」——そんなふうに普通に訂正し合える職場にしておくと、お互いにとても楽になりますよ。
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