ストレスチェック制度の概要・会社の対応方法

ストレスを受けやすい現代社会。気づかないうちにストレスが原因で体調を崩すことも多く、回復するまでに時間がかかることもあります。ストレスがない環境が理想ですが、ゼロにすることは難しいのが現状です。

厚生労働省はこのストレスに対応するため、「ストレスチック制度」の実施を通達し、「働く人」の健康と「働く環境」の整備を全国の企業に対して義務化しました。ここでは、義務化されたストレスチェック実施に関して、その概要、企業がすべきこと、注意点等を解説していきます。

ストレスチェック制度の概要

厚生労働省が平成26年度から「ストレスチェック制度」を義務化しました。労働安全衛生法第66条の10第1項に規定された「心理的な負担の程度を把握するための検査」を指し、以下の4点の実現のために実施します。

  1. 従業員のストレスの程度の把握
  2. 従業員自身のストレスへの気づきを促す
  3. 働きやすい職場環境をつくるために、職場改善や業務内容改善に繋げる
  4. 「一次予防」として、従業員のメンタルヘルスの不調を防止

ストレスチェックを定期的に行うことで、自分のストレスに気づくきっかけを作りました。さらに、職場単位でストレスチェックの結果を集計・分析して、職場環境や業務内容から受けるストレスを把握可能。従業員のストレスはプライベートの問題や職場環境など、さまざまなことが影響しています。事業所としては、少しでもストレスを軽減できるように職場環境の改善を行うことが大切です。

ストレスチェックの実施などは事業者の義務

労働安全衛生法という法律に則って行われている制度です。そのため、「常時、50人以上の労働者を使用している事業所」は、ストレスチェック制度を実施することが事業者の義務と明記されています。

ただし、ストレスチェックを実施したことによって従業員のことや職場環境を、すべて把握できるわけではありません。様々な評価分析、企業としての対策を施す必要はありますが、まずはストレス原因が存在することを知り、定期的に実施することが大切です。そのため、事業者はルールを守りながら積極的に実施しましょう。

ストレスチェック実施の具体的な流れ

「常時、50人以上の従業員がいる事業所」が対象となり、年1回以上の実施が求められます。実施は本社一括ではなく、支店や総務課、営業部等の部署ごと(事業所単位)で行います。50人未満の事業所は「努力義務」です。

ここでは基本的な実施の流れを解説しています。詳細は以下のURLを参照ください。

参照ストレスチェック制度簡単導入マニュアル

1.事前準備

法律によってストレスチェックを実施することが義務付けられても、従業員に実施することや目的、方法などを周知しなければいけません。そのために、事業所内で実施前に実施方法や対象者などを決めましょう。たとえば、以下の項目を事前に決めるとスムーズに実施することが可能です。

  • 実施する対象者
  1. 社長や役員は「使用者」に該当するため対象外
  2. 派遣社員に関しては雇用元である派遣会社が実施するため、基本的に派遣先企業では実施しない
  3. 上記2項目以外の対象に関しては、社内の安全衛生委員会などで決める
  4. パートとアルバイトは、①契約期間が1年以上、➁週の労働時間が通常の労働者の4分の3以上 のいずれかを満たしていること
  • 実施期間
  1. 年1回以上
    例:2021年4月1日~2022年3月31日の期間内に1回以上実施する
  2. 2回目以降は前回から「1年以内」に実施
  • 質問票(職業性ストレス簡易調査票)を決める
    「職場において本人の心理的負担の原因に関する項目(職場のストレス要因)」、「心理的負担による心身の自覚症状に関する項目(心身のストレス反応)」、「他の労働者による本人への支援に関する項目(周囲のサポート)」の3つの領域の質問が含まれている必要があります。3項目が網羅されていれば特段の指定はありません。
  1. 国の推奨する質問票を使用する(57項目、23項目等)。
  2. 事業所が独自に設定する、または独自項目を追加する。
  • 質問票やインターネットを使った場合の回答の回収方法
  • 面接方法と面接実施場所
  • 質問票やデータの管理方法  など

2.従業員へのストレスチェックの説明

実際に実施する場合、事業者は従業員に実施目的や実施方法、個人情報の取り扱いなどを周知する必要があります。ストレスチェックは事業者には義務ですが、従業員に対しては義務ではなく、受ける受けないの選択権があります。ストレスチェック結果、及び受けた受けないの情報は企業側には基本的に開示されません。様々なケースを想定し、従業員から疑問点や質問などが発生したらすぐに対応可能な体制を敷くことで、1人でも多くの従業員がストレスチェックを受ける環境を提供することが重要です。

3.実施者へ依頼する

ストレスチェック実施の要となるのが実施者です。産業医や保健師だけではなく、厚生労働大臣が指定している研修を受けた、看護師や精神保健福祉士も実施者任命が可能です。ストレスチェックを開始する前に実施方法や役割分担、面談等で使用する場所等を実施者と打ち合わせておくことが必要です。

4.実施

○質問票を従業員に封書またはメールで配布したうえで記入していただきます。ITシステムによるオンライン実施も可能です。

○記入が終わった質問票は、医師などの実施者(またはその補助をする実施事務従事者)が回収します。

○回収した質問票をもとに、実施者がストレスの程度を評価し、高ストレスで医師の面接指導が必要な者を選びます。

○ストレスチェック結果(ストレスの程度の評価結果、高ストレスか否か、医師の面接指導が必要か否か)は、実施者から直接本人に通知されます。

○ストレスチェック結果は、実施者(またはその補助をする実施事務従事者)が保存します。

質問票発送/集計/評価/分析等を外部業者に委託することも可能です。その場合、ストレス程度の評価が完了した状態が実施者に届きます。実施者は自覚症状、周辺状況、届いた数値の状況や補助面談を用いて高ストレス者として選定します。実施者の役割りは「結果の集計・分析」、「面接が必要な従業員を選定する」ことです。

実施者を補助する役割りで「実施事務従事者」も必要です。具体的な役割りは以下を参考にしてください。

  • 質問票の配布や回収
  • 質問票への記入やインターネットといった方法で回答する。ただし、インターネットやICTを使う場合は、以下の3項目を全て満たしている必要がある

①事業者・実施者は、個人情報の保護や改ざん防止のための仕組みが整えること。さらに、実施者または実施事務従事者による個人の検査結果の保存 が適切に行われる環境であること

➁本人以外に、結果を閲覧できる人は限定されている。実施者以外は閲覧不 可

③ 実施者は自信の役割りである、使用する質問票を選ぶ、評価基準を決める、個人の結果の評価などが実施できること

  • 質問票は誰が配布しても問題ない
  • 本人への結果通知
  • 面接の勧奨や調整

実施事務従事者には、医師や保健師など医療従事者以外でも可能です。たとえば、衛生管理者やメンタルヘルス担当者、人事担当など。社内に適任者がいない場合は、外部に依頼することもできます。人事担当者であっても、権限がない場合はなることができます。

ただし、「社員の解雇や昇進・ 異動に関して、直接の権限を持つ人」に該当する場合は実施者と実施事務従事者のどちらにもなることはできません。

5.高ストレス者の選定・評価

質問票をもとに、従業員のストレスを評価します。条件のいずれかに該当すると、判定は「高ストレス者」となりますが、外部委託する場合は数値上の判定がされてきます。そこから医師面談が必要かどうか、補助面談対応をするか等を実施者が判断します。選定の基準は前述のマニュアルに記載されています。大まかな基準は以下の2点です。

  1. 「心身のストレス反応」という項目の合計が高い
  2. 1の合計が一定以上に達し、「職場のストレス要因」と「周囲のサポート」という項目の合計も高い

医師の面接は、本人が希望しなければ実施できません。申し出があったら、面接を実施しましょう。

6.従業員に結果を伝える

質問票の結果が出たら、本人に結果を返却します。紙面配布であれば封書で、インターネットであれば個別メール等の各方法で結果を返却します。結果票には以下の3項目が書かれています。

  • ストレスの程度の結果
  • ストレス度の程度
  • 医師との面接が必要か

結果は個人情報のため、「事業所」に返ることはありません。事業所が結果を必要と判断した場合は、本人の同意を得る必要があります。

提供の同意を得る方法として一般的なのが対象者から同意書をもらう方法です。以下のひな型を参考としてご利用ください。

結果提供同意書ひな型

 

7.労働基準監督署へ報告する

ストレスチェックの実施結果は、企業が労働基準監督署へ報告することが必須です。また、ストレスチェックを実施後の報告を怠ると、最大50万円の罰金を支払う義務が課せられます(労働安全衛生法 第120条)。

労働安全衛生法上、ストレスチェックを実施しないことに対する罰則は定められていません。しかし、事業者には、労働者が心身の健康を維持しながら働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)があるため、ストレスチェックを実施しないことは労働契約法の違反にあたります。そのため、実施をしたら必ず正しい結果を労働基準監督署に報告をしましょう。

8.医師の面接

実施して、結果を返却したら終了ではありません。医師の面接を希望する従業員に対して、面接を実施しましょう。面接の実施場所は、他の従業員がいない環境でなければいけません。面接の場所として適した環境を用意しておきましょう。

医師の面接に関するルールは以下を参考に行いましょう。

  1. 高ストレス者という判定を受け、面接を希望している従業員に実施すること。ただし、面接希望者は結果の到着後、「1か月以内」に申し出ること。また、面接の実施も面接の申し出があった日から「1か月以内」に実施すること
  2. 希望者に対して面接を実施することは事業者の義務
  3. 面接は就労時間内に実施すること
  4. 医師の意見を参考に職場環境の改善や、労働時間の短縮、業務内容の変更などを検討し、決定するまでを面接を行った日から「1か月以内」に実施する。このとき、本人の意見なども確認すること。ストレスの原因となっている環境など改善されていれば、徐々に業務内容などを元に戻していく
  5. 面接指導の結果は事業所で「5年間」保存する。記録内には、以下の項目が含まれていること。医師からの報告内に項目の内容が含まれていれば、報告内容をそのまま保存することも可能
  • 面談の実施年月日
  • 従業員の名前
  • 面接指導を担当した医師の氏名
  • 従業員の就労状況やストレス状況、その他の心身の状態
  • 就業していくうえで、必要な措置に関する医師の意見

9.集団結果を集計・分析

集団とは「10人以上」のこと。実施者に結果を集計・分析後、その結果を企業に情報共有します。企業は共有された結果をもとに、職場環境の改善を行いましょう。

集団に対する集計や分析は努力義務です。そのため、事業所の判断で行わいな選択も可能です。また、10人未満の場合、結果が特定される恐れがあります。少ない人数で行う場合は、全員から同意を得る、もしくは10人以上の括り(営業所→支店単位等)で分析方法を変更する等の配慮が必要です。

実施時の注意事項

厚生労働省のマニュアルには、実施時の注意事項も記載されています。誰もが安心してストレスチェックを受けることができるように、実施前に注意事項を確認してから実施しましょう。

1.プライバシーの保護

ストレスチェックは質問票にチェックを記入することで、自分自身のストレス度を把握できます。内容は職場に関連することであるため、記入している従業員によっては就業先に知られたくないこともあるでしょう。そのため、個人情報が流出しないようにプライバシーの保護を徹底しなければいけません。プライバシー保護に関して、以下の内容を厳守しましょう。

  1. 事業者がストレスチェックに関連した従業員一人一人の情報を本人の許可なく、また、立場を利用して入手することはできない
  2.  実施者と実施事務従事者には、結果などに対して守秘義務がある。もし、違反した場合は、法律を守らないことになるため刑罰の対象となる
  3.  事業者に提供をした結果や、面接の結果などは個人情報に該当する。そのため、鍵付きのキャビネットに保管するなど適切に管理すること。社内で共有する場合にも、必要最小限の範囲にとどめること

2.不正な利益取扱いの防止

事業者は従業員にとって不利益となることは禁止されています。特に以下の2項目に該当する行為は、不利益と判断される可能性が高く、すべての従業員に対して、平等に対応することが大切です。

  • 以下の内容を理由に、従業員に対して不利益な取扱いを行ってはいけない
  1.  医師による面接指導を希望したとき
  2.  ストレスチェックを受けない場合
  3.  面接や質問票の結果を、事業者に提供することを同意しない
  4.  本人が希望した面接指導を医師に依頼しない
  •  面接指導の結果を理由に従業員が不利益を被ってはいけない。たとえば、解雇や雇い止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換・職位の変更など

日ごろから事業所が従業員に対して行うこと

どの程度、ストレスを抱えているか把握することは難しいことです。把握するためのツールとしてストレスチェックを行い、従業員ごとのストレスの程度が判明します。ストレスはゼロにすることはできませんが減らしたり、減らす工夫を行うことは可能。

ここでは、日ごろから事業所が従業員に対して行うことをご紹介します。内容を参考にして、働きやすい環境づくりを意識しましょう。

1.ストレスが増えない環境づくりをする

従業員一人一人が、必ずしも自分自身に合った業務に従事できるとは限りません。少しでも「自分に合っていない環境だな」と感じると、ストレスの原因の1つになります。

ストレスチェックはあくまで個人の「ストレスの量」が把握できるだけです。ストレスの原因となっていることは、把握することはできません。そのため、職場の管理者は日ごろから職場巡視を産業医や保健師と行って環境をチェックしたり、従業員からの声や残業状況などをチェックすることが大切です。そして、吸い上げた情報は分析して改善できるポイントがあれば、改善案を実施・評価しましょう。

ストレスが多い環境は、従業員が体調を崩してしまう原因になります。休職すると、仕事がスムーズに進まなくなったり、他の従業員の負担にもなります。また、心の病気で休職すると、復職するまでに時間がかかることも。休職者が出ることは、事業所にとっても損失です。さまざまな視点から、従業員が働きやすい職場環境づくりをしましょう。

2.業務に合わせてストレスチェックを行う

1つの事業所であっても、業務内容によって繁忙期や負担感は異なります。そのため、定期的にストレスチェックを行うことで、ストレスを感じやすい業務内容などを把握することも可能です。

ストレスは質問票でチェックしなくても、把握することは可能です。日ごろから、従業員の表情や業務に対する態度なども観察をして、変化に気づけるように意識しましょう。

3.改善の重要性

ストレスの原因を把握した状態で終了してしまうと、ストレスは増えていく一方です。職場環境を改善したり、業務手順を見直すことは必要な作業です。今の状況で従業員がストレスを感じているのであれば、少しずつ改善していきましょう。

場合によっては、他の改善策で環境づくりが必要になることもあります。一定期間が経過した時点で、改善した状況を評価することも大切です。

 

ストレスチェックの事後フォローまで実施しよう

 

厚生労働省のストレスチェック制度が行われるようになり、数年が経過しました。厚生労働省のホームページにはマニュアルや指針が掲載されています。しかし、いざ実施する段階になると、不明点や疑問点が発生。ストレスチェックを正しく行うために、マニュアルや指針を確認しましょう。

また、ストレスチェックを実施した段階で終わりではなく、事後フォローまで行うことが大切です。少しずつでも改善し、働きやすい環境づくりをしましょう。

 

 

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