認知の歪みとそれへのカウンセリング

私たちは、周囲の状況や自分の状態を主観的に判断しています。例えば、自分の大切にしているものを壊されたら腹が立つし、自分ではどうにもならない危険が迫れば不安が高まります。

このような認知のプロセスは、二つのレベルに分けることができます。ひとつは自動思考、もうひとつはスキーマといわれています。

 

自動思考とは、ある状況で自然かつ自動的にわき起こってくる思考及びイメージのことで、その時々の認知のありかたが如実に反映されています。

一方スキーマは、その人の基本的な人生観や人間観です。生得的要因・環境的要因双方の影響を受けながら、これまで体験した事柄に基づいて形成され、自身でも気づかぬまま心の奥底に存在している個人的な確信のことです。

 

通常人間は、こうした自動思考やスキーマによって、周りの環境に適応しつつ行動するわけです。しかし事故や災害、大切な人やペットとの死別、経済的破綻に突然襲われたりしたときなどには、非適応的なスキーマが再構築され、その影響により誰しもが認知の歪みを生じさせていきます。

 

この認知の歪みが極端になってくると、生活上・人間関係上の適応レベルは低下し、自動思考として意識されるや自らの行動、感情、動機の障害も現れ、悪循環に陥ることが知られています。

具体的には、自分勝手に推論してしまう恣意的な推論、自分に関係する些細なできごとに焦点を合わせて信念を正当化しようとする選択的抽象化、些細なできごとを過大に取り上げたり逆に良いできごとをつまらぬものであるかのように判断したりする誇張と矮小化、しなければならないと考える「すべし」思考、無関係なできごとであってもそれが自身に直接関係しているかのように判断する個人化、その他、絶対的な二者択一思考などがあります。

 

こうした認知の歪みを対象とする認知療法カウンセリングは、歪んだ結果や現象への対処法を教えるものです。クライアントの思考における社会的スキルを増大させ、自分で対処できるという感覚をもつことができるようにするのが、このカウンセリングのねらいです。

 

そのため実際のカウンセリングでは、クライアント特有の思考におけるプラス面とマイナス面をあぶり出して他にも違う考え方があることを明らかにしたり、破壊的な見方を緩和して肯定的な考え方に変化させるなどの認知的技法を用いたりします。同時に、活動スケジュールを作成して実行に移させたり、行動リハーサルや主張訓練をしたり、リラクゼーションや瞑想、呼吸訓練などの行動的技法を併用したりしていきます。

 

つまるところ、クライアントが自分自身を変容できるように学習体験を与えていくことこそが、認知の歪みに対する心理臨床現場の取り組みとして、大変重要視されているのです。

そのようなわけで、この認知療法の留意点としては、あまりに「個」に対する責任や変容を求めすぎると、クライアント自身が生きづらさなどを抱えるおそれもあることを、常に自覚しておくことが大切でしょう。