【メンタルヘルス対策】法律や厚生労働省の4つのケアなどを解説
法律でメンタルヘルス対策が義務化されていることや厚生労働省が推奨するメンタルヘルス対策が存在することは知っていますか?
2023年1月現在、労働者が50人以上いる事業所は、年に1回のストレスチェック実施が義務化されています。場合によっては、罰金が課されることもあります。
また、企業全体の生産性を上げるためにも、メンタルヘルス対策は必須です。
メンタルヘルス対策とは?
近年、メンタルヘルスに関する問題が深刻化しています。健康の不調と同じように、心にも不調は存在します。
対策を怠って大きな問題に発展する前に、しっかりとメンタルヘルスに関する知識を身につけましょう。
そもそもメンタルヘルスとは
メンタルヘルスとは、心の健康状態を意味します。
心が軽い、穏やかな気持ち、やる気が沸くといった状態であれば、心の健康状態は良好です。一方で、気持ちが沈み落ち込んだ状態が長く続くのであれば、メンタルヘルス不全と言えます。
メンタルヘルス不全における問題点は、周囲の人に気づかれにくく、自分からも伝えづらいということです。オープンにできないことで、心の健康状態の回復に時間がかかってしまうケースもあります。
また、メンタルヘルス不全に陥ると、ストレスで仕事の生産性が落ちるなどの悪影響が出ます。最悪の事態になると、職場に行けなくなる可能性もあるため、企業にとってメンタルヘルス対策の実施は必須です。
誰にでも起こる可能性があるメンタルヘルス不全に対して、しっかりとした対応をすることが現代の企業に求められています。
メンタルヘルス対策の目的
メンタルヘルス対策の目的は、以下の3つです。
- 安全配慮義務の履行
- メンタルヘルス不全に陥った社員の職場適応
- 全ての社員の心の健康レベル向上
上記の目的の中でも特に注目すべきなのが、全ての社員の心の健康レベルの向上です。安全配慮義務の履行やメンタルヘルス不全に陥った社員の職場適応は、メンタルヘルス不全の発症や悪化が防げます。
ただし、発症や悪化を防ぐだけではなく、全体的な心の健康レベルを向上させることもメンタルヘルス対策では重要です。社員1人1人が向上心を持ち、良好な心の健康状態で働けることがメンタルヘルス対策の最終的な目的と言えます。
厚生労働省が定義するメンタルヘルス対策
厚生労働省は、メンタルヘルス対策を大きく3つの段階に分けて定義しています。
- 一次予防(未然防止)
- 二次予防(早期発見)
- 三次予防(復帰支援)
近年は、特にうつ病の問題が深刻化しています。抗うつ剤を飲んでも効きにくく長期化しやすいタイプのうつ病が増加し、加えて双極性障害や統合失調症、睡眠障害など、幅広いメンタルヘルス対策が求められています。
また、このような問題を抱える人たちが、どのように職場に適応するのかも対策の1つとされています。
一次予防(未然防止)
一次予防とは、まだメンタルヘルス問題を発症していない人に向けた対策方法です。積極的な健康の保持増進を行い、メンタルヘルス問題を未然に防止します。
一次予防の具体的な方法としては、ストレスチェック制度の導入です。ストレスチェック制度を実施する際は、まずストレスチェックができる質問用紙を用意して従業員に回答して貰います。その後、回答を見て高いストレスがあると判断された場合、産業医の面接指導が受けられます。
また、ストレスマネジメント研修も一次予防の1つです。ストレスのパターンやコントロールの方法を知ることで、社内全体でストレスに対する知識を深められ、大きな問題の未然防止にも繋げられます。
ストレスチェック制度の実施は法律で定められている
ストレスチェック制度は、労働者が50人以上いる事業所に年1回の実施が労働安全衛生法で義務付けられています。実施する際は、全ての労働者に対して行わなければいけません。
また、ストレスチェック制度は、ただ実施するだけではなく労基署への実施報告も義務付けられています。未実施、または報告を怠った場合は、最大50万円の罰金が課せられるため注意が必要です。
さらにストレスチェック制度が未実施だと、安全配慮義務の違反となり、債務不履行による損害賠償が請求される可能性もあります。
二次予防(早期発見)
二次予防とは、メンタルヘルスの不調を感じ始めた社員に向けた対策方法です。メンタルヘルスの不調を早期発見できる環境を作り、適切な治療へと促します。
主な対策方法としては、相談窓口の設置や産業医との面談などが挙げられます。二次予防では、特に社員が自ら相談できる体制を作っておくことが重要です。
そのため、相談窓口や産業医との面談がすぐに行えるよう、組織全体で認知させておく必要があります。
三次予防(復帰支援)
三次予防とは、メンタルヘルス問題で働くことが難しくなった社員に向けた対策方法です。職場復帰支援や復帰後のフォローなどを行います。
三次予防の段階で進めておくべきことは、休職の制度やルールの明確化です。制度やルールを明確にすることで、職場復帰する際にスムーズに進められるようになります。
また、メンタルヘルス問題が再発することも考慮し、医療機関との連携体制も整えておくと良いでしょう。
メンタルヘルス対策の4つのケア
メンタルヘルス対策おいて、厚生労働省は4つのケアを推奨しています。
- セルフケア(個人での対応)
- ラインによるケア(管理監督者から部下への対応)
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
- 事業場外資源によるケア
企業がメンタルヘルス対策を行う際には、4つのケアを参考にして進めていくと効果的です。
セルフケア(個人での対応)
セルフケアとは、メンタルヘルス不全に対して個人で対応ができるよう、企業が労働者に対して教育することです。主に教育研修や情報提供などを行います。
社員に対し教育する内容は以下の通りです。
- ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
- ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
- ストレスへの対処
また、部下だけではなく管理監督者にとってもメンタルヘルスのセルフケアは重要です。そのため、役職など関係なく、全ての労働者を対象にセルフケアの教育を行うことが求められます。
ラインによるケア(管理監督者から部下への対応)
ラインによるケアとは、管理監督者が部下に対して行うケアのことです。管理監督者の役割は重要で、主に以下のことを行います。
- 職場環境などの把握と改善
- 社員からの相談対応
- 職場復帰における支援
- etc.
管理監督者が職場のストレス要因を把握することで、労働環境の改善をします。日々の業務中で部下がストレスを抱えていないかを気にかけ、職場環境でのストレスを軽減させることが重要です。
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、社内の産業医や衛生管理者、保健師などが中心になってセルフケアやラインによるケアを行うことです。
主に以下のようなことを行います。
- 具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
- 個人の健康情報の取扱い
- 事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
- 職場復帰における支援
- etc.
事業場内産業保健スタッフ等によるケアでは、メンタルヘルス対策の制度や体制を整備することが大切です。セルフケアやラインによるケアが円滑に行われるよう、社内のスタッフにメンタルヘルス対策のサポートも行います。
事業場外資源によるケア
事業場外資源によるケアとは、メンタルヘルスを専門とした社外のサービスを利用するケアのことです。社員が外部サービスに相談するだけではなく、管理監督者などに対してメンタルヘルス対策の専門的な知識の提供なども行います。
メンタルヘルス不全は、非常にセンシティブな問題です。社内だけでは解決できない場合もあり、外部のサービスに頼ることも1つの解決策です。
メンタルヘルス対策を行う企業のメリット
メンタルヘルス対策による企業へのメリットは、非常に大きいです。反対にメンタルヘルス対策を怠ると、従業員の士気が下がったり企業の評判が落ちたりなどのデメリットがあります。
従業員の生産性が向上する
メンタルヘルスの低下は、集中力や判断力の低下に繋がります。ミスや事故が頻繁に起こる原因となり、企業全体の生産性が低下します。
また、メンタルヘルス不全によって起こるネガティブな雰囲気は、個人だけの問題ではありません。周りにも強く影響し、社内の士気が落ちる可能性があります。組織全体の活力をあげて生産性を向上させるには、メンタルヘルスへのケアを徹底することが重要です。
企業の評判が良くなる
企業の評判が良くなると、人材の確保が難易度が下がるといったメリットがあります。
メンタルヘルス対策に対して積極的に取り組んでいることは、労働者にとって非常に魅力的な点です。魅力的な点が多くイメージが良ければ、応募者は増加し、採用力が強化されます。メンタルヘルス不全に陥る労働者の全体数も減るため、安定した社員数を確保できるでしょう。
また「一般財団法人日本次世代企業普及機構(ホワイト財団)」からホワイト企業として認定してもらうことも可能です。ホワイト企業の認定されれば、企業PRとして活用でき、企業のイメージアップにも繋がります。
ハラスメントの未然防止に繋がる
メンタルヘルス対策の実施は、ハラスメントの未然防止にも繋がります。メンタルヘルス不全には、社内のハラスメントが原因であるケースも多いです。
また、ハラスメントの場合は、企業責任を問われる問題にまで発展する可能性があります。場合によっては、安全配慮義務違反や不法行為の使用者責任となり、債務不履行の責任が追求されます。
企業にとってハラスメントが発生することは、大きなリスクです。ハラスメントによる大きな問題を起こさないためには、積極的なメンタルヘルス対策への取り組みが求められます。
企業が実際に取り組んだメンタルヘルス対策の事例
メンタルヘルス対策を進めたい企業の中には、どのように進めていいか分からない企業も多くあります。そのような企業は、すでにメンタルヘルス対策を行っている企業の事例を参考にして進めるのがおすすめです。
ここでは、西日本ビジネス印刷株式会社と長府工産株式会社の事例について取り上げます。
西日本ビジネス印刷株式会社(福岡県福岡市)
西日本ビジネス印刷株式会社は、総合印刷業を展開する企業として設立された企業です。総合印刷業以外にも、ソフト開発やコンテンツ作成などの事業も展開しています。
メンタルヘルス対策として取り組んでいることは、以下の通りです。
- 相談窓口の設置
- メンタルヘルス研修
- メンタルヘルス推進委員会の設置と定期開催
- 職場環境改善活動
- 毎朝のラジオ体操の実施
- 地域の清掃を通じた社会貢献活動の推進
- セルフチェックの実施
西日本ビジネス印刷株式会社では、職場のメンタルヘルス対策に関する無料の公的支援を受けながら、社内で「心の健康づくり計画」を進めているそうです。また、「心の健康づくり計画」を社内外に周知することで、メンタルヘルス対する社内の方針をはっきりと示しています。
さらに、ストレス関連のセルフチェックも毎月実施しており、メンタルヘルスの変化に気づける取り組みをしています。経営者からの声掛けも徹底し、日頃から社員の様子も伺っているそうです。
長府工産株式会社(山口県下関市)
長府工産株式会社は、1980年に住宅設備機器メーカーとして設立された企業です。メンタルヘルス対策としては、以下のような取り組みを行っています。
- ヘルスアドバイザーサービス「ウェルネスチェック」(全社員)
- 事業場内メンタルヘルス推進担当者研修(安全衛生委員会)
- ラインによるケアの研修(課長職以上の管理監督者)
- メンタルヘルス研修(新卒リーダー研修)
- メンタルヘルスに関する資料配布
- 小規模事業場の労働安全衛生対策の利用
メンタルヘルス対策に取り組み始めたのは、社内からの「社員の心の健康状態をチェックしよう」という提案がきっかけでした。最初は、中央労働災害防止協会のヘルスアドバイスサービス”ウェルネスチェック”の利用して、心の健康状態のチェックを開始しました。
その後、積極的に取り組みを開始しましたが、実際にメンタルヘルス対策を実施すると方法が全く分からなかったそうです。そこで、事業場外資源の中央労働災害防止協会から徹底的なアドバイスを受け、1年間の準備期間を経て「メンタルヘルス活動開始」を全社に発表しました。
現在では、全社員にメンタルヘルスに関する情報を提供できるよう、インターネット上で資料を公開するなどの対策をしています。また、小規模の事業場であっても委員を集め、定期的にメンタルヘルス対策について話し合う場を作るなどの工夫もしています。
テレワークにおいてもメンタルヘルス対策は必要
テレワークと聞くと、無駄な人間関係減りストレスも減るとイメージする人もいるでしょう。ですが、テレワークの環境下においても、メンタルヘルス不調になる可能性があります。
テレワークでもメンタルヘルス対策が必要になる理由
テレワークの問題点として、仕事と休みの切り替えが難しいといった点が挙げられます。切り替えができないと、長時間労働をしてしまい、メンタルヘルスに影響が出る可能性が高くなります。
また、テレワークは1人で仕事をしているため、管理監督者がメンタルヘルスの変化に気づくことも難しいです。知らない間にメンタルヘルス不全となるケースも多く見られます。加えて、運動不足や睡眠障害、自律神経失調症などを引き起こす確率も高くなる傾向があります。
こういった問題を防ぐために、テレワークであったとしてもメンタルヘルスケアは必須です。特にメンタルヘルス不全を未然防止できる環境が大切ですので、テレワークでは一次予防を徹底して行う必要があります。
テレワークにおけるメンタルヘルス対策の具体例
テレワークにおけるメンタルヘルス不全は、コミュニケーション不足が原因となる場合も多いです。そのため、具体的な解決策としては、コミュニケーションの量を増やすことが挙げられます。コミュニケーションを増やせば、管理監督者が部下のメンタルヘルスの変化にも気づきやすくなります。
また、仕事と休みの切り替えさせるには、徹底的な勤怠管理が必要です。正しい勤怠管理が行われれば、テレワークの問題点である過度な労働が防げます。運動不足などの問題に関しては、定期的に健康的な生活を意識するよう呼びかけるなど対策がおすすめです。
メンタルヘルス対策を徹底して社内を活性化させよう
メンタルヘルス対策は、一次予防・二次予防・三次予防とそれぞれの段階ごとに方法を変える必要があります。
また、メンタルヘルス対策を全て社内で完結させるのが難しい企業もあるでしょう。そのような場合は、外部サービスを利用し、迅速に相談できる環境を整える必要があります。
労働基準法といった法律にも抵触しないよう、企業には徹底したメンタルヘルス対策が求められます。