中年期のうつ病とその対応

近年、日本の自殺者総数は3万人前後で推移しています。自殺者を年齢別でみた際に特徴的なのが、働き盛りの中高年層に多いことです。

 

一般に、自殺に至る心理の過程として、価値観や生きる意味の喪失があることはいうまでもありません。とりわけ中高年期では、男性の場合職務上のできごと、過労、人事異動、昇進、転職、経済的困窮の問題などが、女性では子どもの自立、家庭内の不和や離別、転居、妊娠・出産などのできごとや問題が、それぞれ自殺の直接的な動機となることがわかっています。

 

しかし、自殺に至るのにはこのような直接的な動機のみならず、その準備状態も重要な要因であることが知られています。

そのひとつが心身の病気、いわゆる精神疾患の関与であり、中でも最も高いウェイトを占めているのがうつ病です。自殺は、こうした精神疾患に加えて、周囲の人的・物的な状態を誘因としながら準備されていきます。自殺の準備状態が形成されると、一見些細に見えるできごとでもその誘因となってしまうので、十分留意しなくてはなりません。

 

うつ病になってしまう人は、一般的に周囲の評価が高く、強い責任感をも有しています。仕事や育児等を休むと周囲に迷惑がかかるから、と休暇の取得をためらう心理が働き、余計に自分を追い込んでしまいます。そして疲労感に苛まれたり、何らかの辛い心身状況を伴ったりすることで、はじめて精神科や心療内科を訪れるのです。

 

こうしたうつ病クライアントの治療には、周囲の理解が欠かせません。中でも、家族や友人、職場の仲間など近しい人々の対応で、特に注意をしていかなければならないことがあります。

 

通常、落ち込んでいる人・元気のない人を慰めようと、思わず「がんばれ!」と叱咤激励することがあります。しかしこれは、うつ病に対しては要注意です。本人自身、「これではいけない」「周囲に迷惑をかけている」と自分を責め、自信を失いかけているところに、無論善意とはいえ「頑張れ」と励ますことは、ますます本人を追い詰めることにほかなりません。

先述したように中高年期の自殺者が多いのは、うつ病あるいはうつ的な状態にある人に対する、こうした理解のない対応が背景にあるといってもよいでしょう。

 

したがってうつ病カウンセリングにおいては、クライアントの家族や職場に対して、うつ病に対する理解を強く促す必要があります。そのために、カウンセラーが率先して発信することが求められます。

まずはゆっくりと休ませること。場合によるとこれを、一刻も早く発信しなければならないケースもあるのです。

 

クライアントの命を守るために、本人がゆっくりと休める状態を確保すること、これこそがカウンセラーを含め周囲の者がとるべき最善の方法です。