気分の落ち込みが目立たないうつ病、仮面うつ病

うつ病と聞くと、気分が落ち込んで暗い気持ちになるといったイメージが強いでしょう。

しかし中には、気分の落ち込みが目立たないうつ病もあるのです。

仮面性うつ病

気分の落ち込みが目立たないうつ病は「仮面うつ病」と呼ばれ、体の不調を訴えるという特徴があります。

頭が痛い、関節が痛い、お腹が痛い、腰が痛いなどの「痛み」や、体がだるい等の「身体的な不調」が前面に出ます。

患者さんは、自分がうつ病だとは思ってもいないので、内科を受診します。
なかには、「きっと更年期障害よね?」と思う中年女性も少なくありません。
更年期障害だとばかり思って、婦人科を受診する人もいます。
腰痛がつらくて、整形外科を受診する人もいることでしょう。

しかし、最初から精神科や心療内科を受診する人はほとんどいません。
それゆえ、仮面性うつ病だと診断がつくまでには時間がかかります。

痛みやだるさや体の不調を感じて内科や婦人科を受診すれば、おそらく必要とされる検査を受けるでしょう。
しかし、痛みやだるさの原因といえるような検査異常は、まず見つからないことが大半です。
だからといって、即異常なしとはいいがたい面もあります。

医学の発達した現代でも、一般的な検査では特に異常が出ない難病もあるのです。
膠原病などは専門医が診察しないと見つけにくいうえに、
初期の段階では、検査に何の異常も出ない疾患もあります。

内科医が「これは何か精神的なものが影響しているのかもしれないな」と思っても、
うつ病を疑うのは最後の最後だとされています。
内科的な疾患をすべて除外してから、うつ病を疑うのが基本です。

そのため、仮面性うつ病と診断がつくまでの間、
何年もドクターショッピングをしていた、という患者さんも少なくありません。

ドクターショッピングとは、まるでスタンプラリーのように、良いと思われる医療機関を次々に回ることを指します。

最初に受診した病院で「特に異常はないですよ」と言われても、
痛みやだるさがあって何とかして欲しいので、別の医療機関へ行きます。
2
番目の医療機関でも「特に異常はないですよ。様子を見ましょう」と言われ、鎮痛剤などを処方されますが、痛みもだるさも一向に軽減しません。

このようにして、3か所目4か所目と病院巡りをするのです。
「いったい何か所の医療機関を回れば、私の苦痛を楽にしてくれる医師が現れるのだろうか?」と思いつつも、さらに病院巡りを続けます。

患者さん一人ひとりの話を、時間をかけてゆっくりと聞くゆとりのないような混みあった病院では、
患者さんが悩みやストレスを抱えていること自体に気付かない、ということも少なくありません。

近年、慢性腰痛を訴える人の多くが、その背後にストレスを抱えているということが分かってきました。
これまでは慢性腰痛と聞くと、運動不足や筋力の低下、腰の使い過ぎなどの影響が大きいと考えられていました。しかし、慢性腰痛には心理的要因も少なからず関与しているようです。

心理的要因が関与している慢性腰痛を抱える人には、下記のような特徴があります。
・心配ごとが頭に浮かぶことが多い
・自分の腰痛は重症で良くなることはないと思っている
・以前は楽しいと思えたことを楽しく感じられない
・腰痛をとても煩わしいと感じている
・このような状態で体を動かす時はかなり慎重にしなければならないと思う
こういった質問項目にyesが多いのです。

また、一度つらい痛みを経験すると、「もうあんな痛い思いはしたくない」というトラウマが生じてしまうことがあります。そのために、安静になりすぎていることも多いのです。
これを「恐怖回避思考」といいます。

恐怖回避思考で過度に安静にしていると、
筋力が低下したり痛みに過敏になったりして、腰痛がさらに悪化するというケースもあります。

仮面性うつ病と診断されていたが、実は線維筋痛症だったというケースもある

「線維筋痛症」はレディーガガさんが患っている病気で、全身が痛くなったり、体がだるくなったりします。
この病気自体が原因で命を落とすことはありません。いくら痛くても、死ぬことはないのです。

しかし、この線維筋痛症の患者さんの自殺率は30%といわれます。
痛みに耐えかねて、痛みを理解してもらえなくて、やむなく自殺を選ぶ人が多いのです。

この病気は、全身を検査してもどこにも異常が出ません。
そのため、仮面性うつ病と診断されていたという人もいます。
ある調査では、診断がつくまでに1年かかったという人が37%、
5
年が10%、10年が8%、
中には15年かかったという人が17%もいました。

仮面性うつ病を他の病気と判断されるのも困りますが、身体的な疾患を仮面性うつ病と思われてしまうのも困りものです。
これらの例からも、仮面性うつ病の診断は難しいことがよく分かります。

しかし、仮面性うつ病という診断の難しい病気があることを
医療関係者のみならず、私たち自身が知っているか知らないかで、
道は右と左に大きく分かれるのではないでしょうか?