ADHDの人の特性は仕事にどのように影響するのか?そしてその援助方法は?

<仕事への影響>
ADHD(注意欠損多動性障害)の人は、その病名に注意欠損とあるとおり、注意力が散漫です。そしてこの特性は、仕事にも影響をおよぼすことがあります。

・すぐに物をなくしてしまう

注意力散漫のため、すぐに物をなくしてしまいます。
携帯電話がない、カギが見つからないなど、探しものばかりしているという状況に悩まされる人もいるでしょう。

探しものがボールペンや修正テープ程度ならまだしも、重要書類のありかを忘れて探し回るということもしばしばあるので、困りものです。

・忘れものが多い
なくしものと似ていますが、忘れものの多さも仕事における弊害となります。これも注意力が散漫だからでしょう。

重要な書類が入っているバッグを電車の中に忘れてしまった、という事例もあります。バッグが重いので床に置き、そのまま手ぶらで電車を降りたみたいだというのです。

・気が散りやすい

仕事中の部屋に掃除係の人が入って来て作業を始めても、それをジーッといつまでも眺めている人はまずいないでしょう。たしかに、デスクの対面に座っている人が指でボールペンを回していると、それが気になることはあります。とはいえ、ボールペン回しをする人をいつまでもジーッと眺めるということは、通常考えられません。

しかしADHDの人は、掃除係が部屋を出て行くまで眺めていたり、他人のボールペン回しをいつまでも見つめていたりすることがあります。急ぎの仕事にもかかわらぬこれらの行動は、気が散りやすいというADHDの特徴に起因します。

・話を最後まできちんと聞いていない

上司や先輩の話を最後まで聞いていないことが多いのも、集中力に欠け注意力が散漫であることによるものです。このため、指示を勘違いしたり間違えたりすることも起こります。いわゆる「ケアレスミス」が多いのは、ADHDの人の特徴です

「A社のBさんに今日は4時に行くと電話入れて」と言われたのに、「B社のAさんに4時に行く」と電話をしているなどがその一例です。

・人間関係がうまく築けない

ADHDの人は、「そういう話は、もう少しオブラートに包め!」などとよく言われます。
遠回しにやんわりと言うのが苦手で、ストレートな言い方、むき出しのままの伝え方をしてしまいます。「オブラートに包んでやんわりと」ということがよく理解できないのです。

そのため、悪気はないのに人を傷つけてしまったり怒らせてしまったりします。

小中高校や大学・専門学校などでも友人とのトラブルをたくさん経験し、自己否定感がつのってそのストレスからうつ病やパニック障害、対人不安症などを併発することもあります。

 

<ADHDの人への上手な援助方法>

・いつも物を探している人には置き場所を決めさせる

修正テープがない、ボールペンがない、印鑑はどこへいったのかなど、いつも何かを探している人は、置き場所を決めると探しものの回数も軽減するでしょう。修正テープは机の一番上の引き出しの右端などと、きちんと決めてしまいます。場所で覚えるのが苦手な人は、緑の箱に入れるなど色で覚えるのがベターです。

・メモを取らせて忘れ物を防ぐ

「メモを取れと言われるけれども、そのメモがどこにいったのかわからない」という声もよく聞きます。
ナースグッズに、手首に巻くことのできるメモがあります。そういった物を活用するのもひとつの方法でしょう。

・口頭での指示よりもメモに書いて渡す

口頭で「A社のBさんに4時に行くと電話して」と伝えれば10秒で済みます。しかし、「A社のBさんに電話して」という指示に対してB社のAさんに電話をしてしまう勘違いは、ADHDの人にしばしばみられる失敗です。

メモに書くとなると数倍の時間がかかってしまいますが、ミスを防ぐためにはやはりメモして渡すのがベターでしょう。

・バッグはできるだけ1つにまとめさせ、床には置かない

電車やバスの床や網棚にバッグを置いて、そのまま下車してしまうという置き忘れを予防するためには、やはり身から離さないことが一番でしょう。

私は防犯も兼ねて斜め掛けできるバッグを使っています。電車やバスや病院で順番を待つ間も、バッグは肩に掛けたまま膝の上に置いています。
旅行などでスーツケースと補助のトートバッグを持っていく場合、スーツケースは忘れなくても、トートバッグを置き忘れるおそれがあります。この場合はキャリーケースの持ち手にトートバックを引っかけて、荷物を1つにするとよいでしょう。

また、財布やカギなど大切なものはウエストポーチに入れて肌身離さずに持っておけば、置き忘れる心配もありません。

・ダンボールの囲いをつくる

新型コロナウイルス感染症の対策として、自分の机の左右や前にダンボールを置いて囲ってしまうという方法を、多くの学校や職場で実施しています。これが、ADHDの人にも大変良い影響をもたらしています。

一般の人は、目に入ってくる情報が自分にとって必要なのか不要なのか、一瞬にして判断します。そして不要不急の視覚情報は、脳まで届かないように遮断しているのです。
ところがADHDの人は、自分にとっての要・不要を判断することが苦手なため、いらない視覚情報まで脳に送ってしまいます。これが、気を散らしたり注意力が散漫になったりする一因です。

顔を上げないと周りが見えないようにダンボールで囲うと、不要不急な視覚情報を遮ることができるので、集中力もアップします。

・耳栓やヘッドホンなどの使用を許可する
聴覚情報も同様です。
一般の人はザワザワした中でも、自分にとって必要な情報とそうでない情報を分けることができますが、ADHDの人はそれぞれがミックスジュースのようにごちゃ混ぜになってしまうのです。

耳栓やヘッドホンで静かな環境をつくると、不要不急の聴覚情報を遮断することができるので、集中力もアップします。

・孤立しないように配慮する

ADHDの人は、小中高校や大学・専門学校などで友達とうまく接することができず、悩んだ経験があることでしょう。悪気がないとはいえ、人を傷つけるようなことを言ったり人を怒らせたりということが多かったのではないかと思います。

このような経験が多いと自己否定感が強くなります。そのストレスで、うつ状態になったりパニック障害や対人不安症になったりという例もあるのです。

これらを予防するためには、努力を認めることや孤立させないように配慮することが必要です。

ADHDの人は、学校で叱られる機会も多かったことと思います。それが自己否定感につながっていることも少なくないのです。

言われたとおりにできたときはその頑張りを認め、努力を認める、という受け容れの姿勢が大切です。努力を認められることが増えてくれば少しずつ自己否定感も低くなり、自己肯定感が高まっていくでしょう。

 

また、ADHDの人の特性は上手に活かせば強みになるということも、ぜひ認識しておいてほしいものです。

ひとつのことに集中するのが苦手という特性は、裏を返せばアイディアが豊富で好奇心が旺盛ともいえます。そしてコツコツと地道に行う作業は苦手ですが、いざ行動力を求められるときは、フットワークの軽さなどの特性が強みになることも多々あります。

 

ADHDの人はよく「わかってくれなくてもいいから、わかろうとしてほしい」と言います。同じADHD同士でもなかなかわかり合えないこともありますし、ADHDとひと口にいっても一人ひとり状況は違うからです。

しかし、かりにわかり合えなくとも、わかろうとしてくれる人が身近にいるだけで安心感があり、情緒の安定にもつながります。

腹立たしいふるまいや非常識な言動を目の当たりにしたときは、少し立ち止まって「なぜだろう?」と考えてみてほしいと思います。そこには必ず、彼ら・彼女らなりの理由があるはずだからです。