自分の心に耳を傾ける

ある日突然、布団から起き上がることができなくなる。
些細なことで涙が溢れ、止まらなくなる。
食事が喉を通らず、体重が5kgも減ってしまった。
大好きだった趣味に没頭できなくなった。

これらはいずれも、うつ病の症状だといわれています。

うつ病の原因は人それぞれです。
学校や職場、育児中など、さまざまな環境のなかでストレスを感じることが
うつ病の引き金となります。

特に、肉体・精神共に追い詰められた状況が長く続くと危険信号です。
肉体面では過労や、それに伴う睡眠・食事の変化、
精神面では自己肯定感の著しい低下が起こり、
それらが人間としての判断力や生きる気力を奪いかねません。

学校では、友人関係のストレスが特に多いでしょうか。
職場では、パワハラやセクハラなど
理不尽な圧力や性を軽んじられる発言・行為によって、
不安定な精神状態が引き起こされます。
過労により休息をとることが難しい環境もまた、心身にダメージを与えます。

出産を経て産後うつになる女性もいます。
ホルモンバランスの変化、また子どもが生まれたことにより生活が大きく変わることへのストレスに起因するものです。
特に大きな要因のひとつが、慢性的な睡眠不足といわれています。
産後の疲弊しきった身体で慣れない育児をするだけでも大変ななか、
夜中に何度も起きて子どもの世話をしなければならない過酷な状況が、うつを引き起こします。

最近では、コロナうつという言葉も耳にするようになりました。
新型コロナウイルスという未知のウイルスの出現により、私たちの日常が脅かされ、
強い不安と緊張を強いられる生活は、大きなストレスそのものです。

短期的なうつ状態というものには、だれもが陥ります。
人間ですから、楽しいことがあれば悲しいこともあるでしょう。
多幸感に包まれる日があれば、辛く落ち込む日もあるものです。
感情の推移というのは、当たり前に存在します。
そして悲しく辛い日があっても、
時間が経てば体力や精神力の回復とともに、ニュートラルな状態に戻ります。

ところがうつ病を患うと、この回復がみられなくなります。
悲しい状態、辛い状態が何週間も続きます。
ネガティブな感情が脳内を支配し、やがて喜怒哀楽を一切感じなくなることもあります。
希死念慮と呼ばれる「死にたい」気持ちが募り、最悪の場合自殺を選んでしまうケースもあるのです。

そうならないためには、十分な休息が必要です。
医師の診断のもと、抗うつ剤や抗不安剤を服用し、心身ともに無理をせず休む、
それが一番の治療法です。

できるならなるべく朝の太陽の光を浴び、栄養バランスのとれた食事を摂り、
散歩や読書をし穏やかな気持ちで過ごすこと。
これだけでも精神状態は安定します。

心の風邪ともいわれるうつは、だれもが発症し得る現代病のひとつとなりました。
しかしそれは、精神に負担をかけて生活する人が増えているという事実の裏返しでもあります。
心の状態は、身体の怪我や病気と違って目に見えづらく、周りからも気付かれにくいものです。
だからこそ、「私、無理をしていないかな?」と常に自身を気遣い、
自分を大切にする癖をつけることが大切です。

うつ病は一度かかると完全な治療は難しく、再発率も高い病です。
寛解と呼ばれる落ち着いた状態までは回復できたとしても
いつ再発するかわからない不安とともに生活しなければなりません。

すぐに環境を変えることが難しい場合は、少し休んだり好きなことをしたり、
自分の心の声に耳を傾けてみてください。
辛いと思ったら身近な人に相談してみてください。
勇気を出して病院に行ってみてください。

心身が健康な状態であってこそ、初めて仕事ができます。勉強ができます。子育てができます。人間らしい生活を送ることができます。

仮にストレスがなくならなくとも、それを受け止める心の状態が整えば、状況は変わるかもしれません。

一度立ち止まって、心の声に耳を傾けてみましょう。
もし今が辛い方がいたら、ぜひ心に留めておいてほしいと思います。